今や絶滅危惧種となったJ.W.ベンソンの名機「トロピカル」ですが、このほど入手した個体はオリジナルのボックスに加えスクリューバックオープナーと説明書まで付属するコンプリートセット。

英国の老舗ジュエラーとして名高いベンソンは、特に懐中時計が有名。かの白洲次郎が愛用したブランドとしてご存知の方も多いと思います。特にFB製のスクリューバックを備えたクッションケースとポーセリンダイヤルの美しいマリアージュがたまらなく、advintageの偏愛時計としてこれまで多く取り扱ってきましたが、説明書が付いてきたのは初めて。

 

書いてあることも非常に興味深く、オープナー(スパナ)を使った裏蓋の開け方だけでなく、着用者に合わせてムーブメントの緩急針(レギュレーター)を動かして調整を行う必要性やその使い方についても言及されていて、当時の時計店のメンテナンスに対する考えが伺い知れる一次史料と言えます。

現代の日本では(基本的に)オーバーホールの時点でなるべくどの姿勢でも高い精度を保つよう詰めた調整を行いますが、この時代は言ってしまえばオーバーホールはそこそこで、販売後あるいは修理後に個人個人に合わせて(場合によっては着用者自らが?)緩急針をいじることが少なからずあったという、結構雑な調整をしていたのではないかと深読みできます。こんなこと説明書に書くほどですからね。

ただあるいは、僕が現地のディーラーと話していると、今でもそちらのオーバーホールのクオリティはそんなもので、日本人の精度に対するこだわりが異常と言われたりするので、修理ひとつとってもお国柄なのかもしれません。