新型コロナウィルスと共に訪れた危機の中、特に有名ブランドの安牌ばかりが幅を利かせる冷えたマインドに支配されていました。先月のテーマ「ダブルネーム」では、そのルーツのひとつとも言える腕時計におけるメーカーとリテイラーによる自然発生的なコラボレーションについて考察しましたが、それは今日のコマーシャリズムの権化のようなブランド同士の単なる掛け合わせという手法ではなく、本業同士がぶつかり合う、本来の目的と美意識がきちんと連動していた美しさを感じることができました。

「ラギッドケース」。今月もそのような王道から逸れた、それでいて一本筋の通った魅力を放つ腕時計がテーマです。

腕時計のケースフォルムは、その象徴たるラウンドケースとドレスウォッチの代表格としてのレクタングルケースに大別され、それらは現行においてもポピュラーな存在ですが、かつて一時期においてのみ流行し、その後オールドファッションに消えていった、ラウンドともレクタングルともつかない、あるいはその両者を融合させたようなケースデザインのジャンルが存在しました。ゴツゴツと角張った異様なフォルム、レクタングルやトノーシェイプに近いシルエットにラウンドダイヤルを併せ持つ、オクタゴナルやバイセロイと呼ばれるケースが今月の主役。

過渡期に生まれたプロダクトに共通する、古いモノから新しいモノへと生まれ変わろうとするうねり、あるいは試行錯誤のダイナミズムを、これら「時代遅れ」の腕時計たちから感じ取っていただけたら。