「ダブルネーム」というと、アパレルブランドが絡むコラボレーションなんかが真っ先に思い浮かぶと思います。というか、それ以外知っている人はほとんどいないんじゃないでしょうか。

最近だとハイブランド同士のコラボも当たり前に行われていますが、ユニクロやH&Mみたいなファスト系ブランドにハイブランドが絡むパターンが有名。日本だとBEAMSやUAなんかがアパレルブランドや靴ブランドなどに別注する形でダブルネームアイテムをリリースしたりしています。欧米でもそれは同様で、あとは一昔前に流行った裏原ブランドとか。

ファッション関係のダブルネームアイテムの歴史を辿ってみると、意外とその歴史は浅いことに気づきます。せいぜい40年程度で、活発化したのはやっと20年前というところでしょうか。

翻って時計業界のダブルネームというと、それはもう100年以上前からダブルネームの歴史は存在しています。古くは懐中時計の時代からウォッチブランドとリテイラーの結びつきが強かったという特徴的な商慣習に起因するもので、必然的にコラボレーションが生まれダブルネームモデルが数多く生まれました。

おそらくその有用性を最大限に活かしたのが、やはり商売上手なロレックスというブランドでした。ロレックスのまわりには数々のダブルネームが存在することは非常に有名で、ほんとにあったのか?という贋作まがいのものも含めると無数に出てきます。

個人的に、ロレックスに限らずコラボしまくるブランドって往々にして大衆化してしまっていて好きじゃない。だからある意味、今回セレクトしたコラボウォッチはそれらのアンチテーゼというか、自然発生的で純粋な要素が残った美しいコラボ、ダブルネームだと思うんですよね。

今みたいにSPAみたいな大規模なビジネススタイルがほとんどない時代、販売したリテイラー、製造したメーカー、もっというと部品や付属品を含めたさまざまな業者が分業体制を敷いていた時代だったからこそ生まれた結晶のようなものだと思います。

 

 

こちらはブードゥル&ダンソン。まぁ大抵の人はナニそれ?でしょうが、1798年に英国リヴァプールで創業し現在も宝飾の製造販売を行う国内有数のジュエラーです。調べると昔のCMとかドキュメンタリーも結構ネットに転がってました。

そのリヴァプールのジュエラーが〈ゼニス〉に製造を依頼した腕時計がこちら。1930年代のアイコニックなオクタゴナルシェイプがミンティに保たれた美しい一本です。リテイラーとメーカーのロゴが両方とも文字盤に記されるダブルネームとなっています。

こういう、老舗とはいえローカルなジュエラーが世界的に有名なウォッチメーカーのゼニスやロレックスなんかとコラボレーションを組むなんてことがあり得た、今日ではそうそう実現しないレアな体験ができるのもこういうダブルネームの魅力かなと。

「思いを馳せる」という、古物を嗜む上での基本動作を再認識させてくれました。

 

 

▲「ウエストエンド・ウォッチカンパニー」が〈ロンジン〉に別注した英領インドの公務員向けのサーヴィスウォッチ。1930年代。

 

▲〈ウエストエンド〉のサーヴィスウォッチはロンジン以外に〈ミドー〉が手掛けたものも存在。

 

▲英国の宝飾品店〈ガラード〉と、後に吸収されることとなる〈ゴールドスミス&シルバースミス〉の腕時計。ロシア皇室と結びつきの強かった名門〈ポール・ビューレ〉が手掛けたダブルネーム。

 

▲英国宝飾業界の最高峰〈アスプレイ〉名義で〈スミス〉が製造した特別な腕時計。1950年代。

 

▲〈スミス〉がおそらく最も古くから、最も多く手掛けたと思われるのが〈J.W.ベンソン〉の腕時計。バリエーションも豊富で、文字盤デザインだけでも4つの異なるデザインが存在。

 

こうして今回のラインナップを見てみても、ハイブランド一極集中的な現代の「大衆化した」ダブルネームとは全然違います。

あとダブルネームと言えばやっぱりこれ。

 

 

エルメスですが、1936年に〈ミドー〉とコラボレーションした当時の広告です。

ミドーというと、どちらかというとヴィンテージウォッチの中では比較的中堅どころといった立ち位置で、決してラグジュアリーブランドではありません。しかしながら当時アヴァンギャルドともいうべき数々のハイスペックな機能性とデザイン性を備えたミドーのプロダクトに惚れたエルメスは、ミドーのロゴの下にエルメスのロゴを配したダブルネームモデルを製造。ウォッチベルトはもちろんエルメス製というラグジュアリーな逸品をリリースします。

 

ラグジュアリーとテクニカル。両極端なブランド同士、それぞれの良さが見事に連携された、本当に美しいコラボレーションです。

 

本当はこれの実物が手元にあれば最高なのですが、残念ながらリダンを除いてオリジナルを見たことがありません。
まさに幻のダブルネームモデルです。