前回の「あるはずのものがない」というヴァリアントデザインに続いて、今回は局所的に「肥大化」した足し算的なコンセプトの腕時計について。

 

 

 

ベゼルが極端に分厚く形成され、まるで宇宙服のヘルメットのような重厚なフォルム。〈デルコーナ〉というドイツのメーカーが手掛けた腕時計です。
力強くも愛らしい、そんな両極端な魅力が同居する佇まい。同時に文字盤のアラビア数字とドットインデックスのコンビネーションや、アール・デコのクラシックなレイアウトは、ユニークさが際立つケースデザインとバランスを保っているようにも見えます。

 

 

 

 

 

続いてこちら。昭和初期の日本においてはJ.W.ベンソンと並ぶ「舶来時計」の人気ブランドとして知られた〈モーリス〉の腕時計ですが、正直こんなラグデザインは他に見たことがありません。
かなり大ぶりなラウンドケースですが、それを凌駕する柱のごとく肥大化した4本のラグ。しかも根元にカッティングを入れたりと凝ったデザイン。素材はすべてステンレススチール製なので、当時の工作技術を考えると有数のウォッチケースメーカーにしかこのような芸当は不可能だったと思われます。

 

 

 

 

 

最後にこちらも分厚く肥大化したベゼルが目を引く腕時計。
前述のデルコーナと異なるのは、このベゼルが真っ平らなフォルムをしているという点です。これは「フラットベゼル」と呼ばれ、なぜか1940年代のヴィンテージウォッチでしか見られない高い人気を誇るディテール。その魅力はなんといっても他では味わえない重厚感ですが、この〈フーバー〉の腕時計はベゼルが異常に分厚い。
フーバーはドイツの老舗宝飾品店で特に自社ブランドを冠した腕時計が有名ですが、このようにデザイン性に凝ったものが多く見られるのが特徴。よく見るとラグもわずかに稼働するフレキシブルラグを採用しています。先ほどの出るコーナも含め、ドイツの腕時計はこうしたケースデザインに遊び心のあるものが多い気がします。