当時のハイテクを凝縮した最先端のスポーツウォッチで知られる、《ミドー》の「マルチフォート」。
やや小振りなケースサイズが大きな特徴ですが、そのデザインは文字盤と同様にバリエーションに富んでいて飽きさせません。今回はその歴史と、バリエーションに焦点を当ててご紹介します。
 

アンティーク 腕時計

 

 

ミドーは1886年にジョルジュ・シャーレンが、スイスのソロトルンで創業した時計メーカー。1920年代までは、当時流行したアールデコスタイルの腕時計が中心でしたが、1934年「マルチフォート」の発表を機に、そのブランドイメージは従来の古典的な印象から、革新的な技術力と高いデザイン性へと一新しました。

 

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当時の広告にはスポーツイメージが多用され、高いウォータープルーフ(防水)機能と腕の動きによる効率的な自動巻上げ機構を備えた腕時計という、先進性が強調されたものになっています。

 

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下は“WINDS AS YOU GO”が合い言葉となる一連のスポーツシリーズの広告の中でも、”GO”が”SWIM”に差し替えられたバージョン。マルチフォートは当時、徹底的なテストを経て完成したシリーズとしても名高く、防水テストに置いては真水と海水の両方に1,000時間以上浸け、さらに水深120mにおける使用テストもクリアしなければいけないという徹底振り。

 

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この、ミドーの代名詞とも言えるロングセラーモデル「マルチフォート」は、防水性、耐水性、対磁性さらに自動巻きムーブメントという4つの利点を取り込んだ、当時としては過去にないハイスペックな腕時計として人気を博すと同時に、《エルメス》がレザーベルトを制作してミドーの腕時計を販売しており、デザイン性における評価の高さも窺い知れます。下は1937年のエルメスの広告。

 

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当時エルメスが販売していたマルチフォートと同じモデルが、次の画像の右の腕時計。エルメスも惚れ込んだ品のあるケースデザインと、アール・デコ的なレイルウェイ・インデックスが印象的。現在のアップルウォッチのような革新性とデザイン性を兼ね備えた存在であったことがうかがい知れます。ちなみに左は、小振りなケースが特徴のマルチフォートには珍しいラージモデル。

 

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そして数あるミドーのマルチフォートの中でも、特に珍しい文字盤が採用されているのがこちら。ブラックミラーダイヤルにホワイトのレイルウェイ、夜光アラビア数字といったミリタリーテイストが強調されたデザインに加え、ブランドロゴが大文字になっています。

 

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オクタゴンケース、シリンダーケースといった変則的なケースデザインが多いのもマルチフォートの特徴ですが、下のようなオーセンティックなラウンドケースは逆に新鮮。右は《オイスター・ウォッチ・カンパニー》の腕時計で、丸みを帯びたベゼルと「マジェスティックダイヤル」と呼ばれる24時間計インデックスを備えた文字盤など、共通項の多い2本。

 

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同じものを探すのが意外にも難しい、多くのバリエーションを誇るミドーのマルチフォート。使い勝手の良い堅牢な構造とセンスの良いデザインで、個人的にイチオシのブランドです。