腕時計は、その道具としての目的上、視認性の高さがデザインに求められます。単純すぎても複雑すぎてもダメ。パッと見てスッと時間を認識できるということが文字盤デザインの前提になり、それが、この足し引きのないニュートラルなデザインを生んでいます。
この4本の腕時計は、いずれもアラビア全数字とスモールセコンドの、典型的な1940~50年代のスタイル。黄金比を思わせる均整の取れた隙のないデザインには、息をのむような美しさすら感じます。
さらに数字のフォントや針のデザイン、夜光の有無といったアレンジにより、ドレッシーにもハードにもそのテイストがガラッと変わります。このような完成されたデザインは、単にシンプルというよりも「必要十分」という方がより正確かもしれません。
こちらは一般にラウンドケースと呼ばれる、最もポピュラーな腕時計のケースデザイン。懐中時計を腕に取付けるという過程で生まれたこの形状ですが、やはりベゼル、ラグ、リュウズといったディテールの微妙な表情の違いが、ルックスに大きく影響します。
個人的に最も美しいラウンドケースは、この《オイスター》社のいわゆる「オイスターケース」。特に初期モデルに見られるエレガントにくびれた曲線と足の長いラグが、ぽってりとしたベゼルの肉厚感と相俟って、独特のメリハリあるシルエットが生まれています。
シンプルなベゼルデザインの中にも、いくつかのバリエーションがみられますが、特にフラットなベゼルが階段状に配されるステップドベゼルはおすすめ。あくまで控えめなデザインでありながら、そのステップの厚みによって重厚感や繊細さといった味わいが広がります。
シンプルなデザインは、翻すと簡素で味気ないデザインにもなりがち。ですが、今回挙げた腕時計はシンプルでありながら味わいと独特の存在感があります。この存在感を生み出しているのが、実はベゼルや文字、針などに仕込まれた細かい意匠なのです。
シンプルな腕時計は、シンプルじゃない部分が大事。そういうことを教えてくれます。