先日の渋谷のお店では、時計としての実用性を高めた結果生まれた「センターセコンド」の腕時計に絞って商品をご紹介しました。
現代的な時計の印象は圧倒的にこのセンターセコンド・スタイルですが、ことアンティークウォッチの世界では、どちらかというとスモールセコンドの方が人気があります。やはりスモールセコンドのクラシカルなルックスが人気の秘密だと思いますが、センターセコンドが持つ「用の美」にも注目の価値があります。
まず1940年代の《ウィットナー》の腕時計。
 

アンティーク 腕時計

ブレゲ数字のアワーマーカーの内側に24時間計を備えたパイロットウォッチで、視認を助ける赤い矢印のついたセンター秒針が特徴的です。クロノグラフの針を思わせるロングテールのセンター秒針は、さらに視認を容易にするミリタリーデザインでもあります。
同じく1940年代の《エルジン》のミリタリーウォッチ。
 
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オールステンレススチール製ケースが採用され、ボンクリップなどのバンブーブレスレットと相性抜群。こちらもロングテールのセンター秒針が備えられるほ か、リューズを引いて秒針を止めるハック機能が搭載されています。エルジンのミリタリーウォッチにしては珍しく、線の細いソリッドなデザイン。
次の2本は《J.W.ベンソン》。どちらも1950年代後半期の腕時計。
 
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左は力強いホーンラグが特徴的なステンレススチールケースのセンターセコンドモデル。ミリタリーテイストが残るデザインながら、ドットインデックスが用いられたモダンなルックスが魅力的です。バンパー式ハーフローターを備えた自動巻きムーブメントが搭載されています。
右は英国伝統の9Kの金無垢ケースが採用されたオーセンティックなモデル。ホワイトダイヤルに映えるゴールドのインデックスや針が上品で、とりわけリーフ型の時分針は柔らかで優美な印象を際立たせています。いずれもスミス社ではなくシーマ社によって手がけられたモデル。
次は兄弟姉妹のような《オイスター・ウォッチ・カンパニー》の2本の腕時計。1940年代製。
 
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レイルウェイ・インデックスのデザインに微妙な違いがあるものの、それ以外はスモールセコンドとセンターセコンドにしか差異を見出せない。この似通った2つが同じ場所にある特別感。
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次はちょっと変わり種です。右はBMWのエンブレムがスモールセコンドのように配された1960年代のノベルティウォッチ。左は”ASPA”という、おそらくスイスに存在した何かの団体のものと思われるエンブレムが入った1950年代の腕時計。ベルトを着け替えて楽しむと面白そう。
 
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次は左から《エルジン》の”TYPE A-11”と《ブローバ》の”TYPE A-17A”2本。いずれもハック機能付き。米軍のミリタリーウォッチ+コットンベルトは有無を言わせぬ雰囲気があります。
 
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エルジンの腕時計は珍しい24時間時計で、24時間で時針が一周するというユニークなモデル。ブラックダイヤルに隠し文字で”ELGIN”の文字が配されます。
ブローバの”TYPE A-17A”は米軍パイロットウォッチの定番的なデザイン。ハック機能により作戦ブリーフィングの際一斉に行う時刻合わせが可能となりました。数字やインデックスが横溢するデザインや視認性の高い配色以外にも、グローブを装着したままでも操作が容易なビッグサイズのリューズや頑強なケースといった、実用デザインが色濃く表れたルックスが最大の魅力です。
次の2点はクロノグラフと三針時計の中間機的な腕時計。「クロノストップ」もしくは「ストップセコンド」とも呼ばれます。
 
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どちらもプッシャー操作によってセンター秒針をリセット(帰零)させることができ、連続計測を優位にした希少な腕時計。普段はセンター秒針は動き続けているものの、計測にも使用するため6時位置にスモールセコンドが設置されています。ある意味中途半端な機能性が、愛らしくもある腕時計。
☞S.H.D. "CHRONO STOP" 商品ページはこちら
最後にアール・デコ的な幾何学デザインがユニークな腕時計2本。
 
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左の1940年代の《オメガ》は、レイルウェイ・インデックスとともに円周が配される文字盤デザイン。センターセコンドだからこそ、そのリズミカルな線の配置やアラビア全数字インデックスとのバランスが活きています。
右の《マセイ・ティソ》は重厚感のあるルックスが特徴的。センター秒針は夜光が張られたリーフ形となっており、通常ではなかなか見られないデザインです。秒針を目立たせるための工夫がユニークなデザインに昇華した好例。こちらも、もしスモールセコンドスタイルだとちょっと武骨すぎて野暮ったい印象になってしまうかもしれません。センター秒針スタイルが生み出すすっきりとした印象が活きる2本です。
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おまけ。参考商品として用意した1930年代の懐中時計なのですが、当時としては大変珍しいセンターセコンド仕様となっています。秒針は槍のような形状で夜光塗料が張られており、レイルウェイ・インデックスと相まって秒の視認性を意識したデザインです。これは1933年まで25年間に渡ってとある病院で働いた看護婦に贈られたナースウォッチで、銀無垢のケースが用いられています。
 
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ナースウォッチとはその名の通り看護婦が使用する時計で、脈拍の計測を行うためセンターセコンド仕様で秒の視認性を優先したデザインが特徴。また病院や敷地内をせわしなく移動したりするため、サイズは小さめのものが好まれました。こちらの懐中時計は第一次世界大戦後サイズは500円程度とかなり小さめ。デザイン性もナースウォッチとしてのニーズを十分に満たしています。
1930年代というと、センターセコンドを可能にするムーブメントは当時の最新技術。それは出車式と呼ばれる、スモールセコンドのムーブメントに歯車を追加することで中央に秒針を置くことを可能にした、間接式のセンターセコンドムーブメントとなります。それが一般的に普及するのは1940年代と言われていますが、こちらはその黎明期に作られたものです。
☞出車式センターセコンドムーブメントについてはこちら
単に新鮮なデザイン性を求めた結果ではなく、視認という実用性の向上を求めた結果生まれたセンターセコンドというデザイン。それが生まれる過程はほとんど注目されることがなく、それによって「今風のデザイン」という印象を多くの方々が持っているのかもしれませんが、その起源やスタイルの変化をたどってみると、新たな味わいや魅力が生まれてきます。ぜひこれからも、それを踏まえて秒針のスタイルの違いや魅力を感じていただければ嬉しいです。