周りのアンティークウォッチショップを見ると、ロレックス、オメガ、インターにジャガー、そしてみんな大好きミリタリーウォッチ。煌めくような名品たちに目を奪われながら、同時に「ホラ、これが好きなんでしょ?」とか言われてるような気がして、何となく嫌だった。それがadvintageを始める原動力のひとつでした。
最初は古着や雑貨を探しに行っていて、たまたま蚤の市で目にしたスミスや、誰も知らないようなブランドの、光り輝くような腕時計。こんなにユニークでカッコいい、しかも作りの良い時計があるのに、なんで日本では全然なんだろう。だったら自分が日本で輝かせてやる。と意気込んで10年以上が経ちましたが、その中で特に英国特有のジャンルとして僕が惹き込まれたのが、ジュエラーズウォッチです。
英国は他の国では類を見ないほどのジュエラー大国と言えます。実際に買い付けで英国各地を回っていて思うのが、どんな小さな町でも古いジュエラーが数件あって、それがもう何百年前の建物なんだろうというくらい古い店構えの趣ある宝飾品店だったりする。そして何かの人生の節目に大切な人へ贈り物をするという形で、人々の生活にジュエラー文化が深く根付いているような気がします。
それは個人から個人だけではなく、会社から個人へ、特に退職する社員に対して腕時計を送るプレゼンテーションウォッチという文化があるのも英国の大きな特徴だと思います。今でも英国のジュエリーショップに入ると、クォーツながら9金無垢ケースの腕時計が売られていて贈答用の刻印サービスを気軽に注文することができます。
僕が興味を惹かれたのは、特に英国の老舗ジュエラーたちが1940年代から60年代にかけて製造販売していた腕時計。そこには僕の大好きな腕時計の要素が凝縮されていて、控えめで質実剛健なデザインだけどすごく気品がある。ゴールドケースも華美な様子は微塵もない、ノーブルでハンサムなデザイン。
またそのクオリティも非常に高く、中でも分業制が健在だった当時は、フランソワ・ボーゲルやデニソンといった名門ケースメーカーはもとより、卓越した印刷や装飾技術を持つ時計文字盤工房の製品や技術を、中小ウォッチブランドがアクセスが可能でした。今ではそうした有能な工房や独自の技術を持つファクトリーを巨大ブランドが買収したり囲い込むため、パテック・フィリップと同じケースを中小のウォッチブランドも使ってるなんてことはまずないでしょう。当時はそれが現実にあった幸福な時代で、ジュエラーズウォッチにはその時代の腕時計製造技術の粋を十分に享受するものが豊富に揃います。
advintageの立ち上げの時に描いた”unknown masterpieces”というコンセプトは、そんなジュエラーズウォッチがある種の原点と言えます。マンスリーテーマで初めて設けたサブタイトル”Little-known, but high-end”は、その言い換えでもあります。立ち上げ当初から自分の知識も感性もだいぶ磨かれてきて、今回はその現在地を見たいというか、最近の自分が周りに流されていないかの戒めとも言える、自分再確認のためのテーマです。よろしければ、お付き合いください。