ご周知の通り、先日4年ぶりにドイツに買い付けのため行ってきました。正直なところ、コロナ禍の3年半を通じてリモートで現地からアイテムを仕入れる体制ができてきたことに加え、エア代が高い。宿代も高い。しかも円安。逆風吹きまくりの状況でなかなか踏ん切りがつかなかったところ、とある北欧雑貨を扱う友人の渡欧に背中を押された格好での決断でした。
今回は6日間という過去最短のショートトリップ。しかも目当てはミュンヘンで開催されるウォッチフェアだけということで、正直買えなくても仕方ないかくらいの気持ちで臨んでいました。むしろ現地で旧交をあたため、次に繋げられれば御の字という感じのリハビリ的なスタンスでしたが、結果的には非常に満足のいく内容でした。
今回ドイツだけに絞ったのも、イギリスはすでにディーラーたちとのパイプができている一方、ドイツのミュンヘンで行われる時計市での関係性はまだ日が浅く、また知らないディーラーもヨーロッパ中から集結するため直接行くことの重要性が極めて高かったからという理由に尽きます。
さてミュンヘンに至るまでは、4日ほどドイツの街々を周遊して、現地の友人とあったりヴィンテージ関係のショップや蚤の市をリサーチして回りました。日本とは違う色が生まれるであろう、刺すような強い光。日本とは違う音が生まれるであろう、夏の湿り気を感じさせない空気。期間中はほとんど雨も降らず、ずっと晴れていた上にこの時期のヨーロッパは夜10時頃まで明るいので、とにかく旅行には最高のタイミング。
そして終わってみて感じたのはこの4日間は全く無駄ではなく、ミュンヘン時計市でドイツをはじめイタリア、チェコ、ポーランドから集まる百戦錬磨の商人たちとしのぎを削る戦いのために必要なメンタルと言語能力を鍛えられた気がします。実際図々しく現地の人間とのやりとりを楽しめるかどうかで良いものが手に入ったり、今後のディーラーとの良好な関係性が築けたりするので意外と重要だったりする。多少時間が空いてしまっても、あの時時計買ってくれた変な日本人がドイツ語でいろいろ話してたな、みたいな印象が残されていると、久々に会ったときに話がスムーズに進んだりするような気がします。多分。
4年ぶりのミュンヘン時計市は、イギリスから来ていた知り合いのディーラーのサポートもあって通常よりも1時間早めに入場することに成功。巨大なホールに所狭しとブースが並ぶ一方で、まだ出展者はちらほら。朝食とコーヒーを片手にアイテムを並べ始めているのを片っ端からチェックに走り回ります。
最初の1時間ほどは、まあまだ出展者も出揃ってないし、まだ大丈夫だろう…とのんびりまわっていましたが、2時間過ぎて3時間過ぎても1本も買えない。第一印象は、とにかく値段が高い。ロレックスをはじめとする有名ブランド、クロノグラフ、ラージケース、ミリタリーといった、いわゆる「役物」の高価なアイテムが圧倒的に多い。これらは正直、高いけどお店に行けば手に入る。advintageがあえて仕入れる必要のない、言わば安牌をわざわざドイツまで来て買う意味があるのか。本来求めていた独自性の高いアイテム、そしてドイツに関係性の深いアイテムが全然出てこず、商売との葛藤に悩みながらも刻々と時間だけが過ぎていきました。
実際モノはあっても値段の相場が高くなっているというのは他のディーラーも感じていたようで、イギリスの知り合いのディーラーも昼近くになっても一本も買えてなかったようです。
昼過ぎになると会場の出展者は完全に出揃います。一番やっては行けないのが、本当に欲しいと思えない中途半端なアイテムを、焦ってとりあえず買ってしまうこと。過去に何度も犯した禁忌を心の中で戒めつつ、根気よく何周も何周も会場をくまなく回っていく。
なぜこんな動きをするのかというと、出展者も会場内を回ってめぼしいアイテムを探して買っていたり、出展者の知り合いのディーラーがアイテムを持ってきて一緒に販売していたり、あるいは出展者や会場にいるバイヤーに売るためにアイテムを持って徘徊しているその他のディーラーなんかもいて、実際は会場内各ブースのラインナップは少しずつ新しいアイテムが入っていたりしています。だからその機を逃さないよう、常に動いて注意深く観察し続ける必要があると言うわけです。ヴィンテージウォッチの買い付けって、本当に地道で忍耐力のいる仕事なんです。
ぐるぐるぐるぐる、ずっと会場内を回り続けること半日。もう何度同じブースの同じアイテムを眺めていたかわからない。あるブースのセラーは「またきたか、〇〇回目だな!」と最初の頃はわざわざカウントして言ってくれてたのが、後半は「さすがに日本から来たら何か買って帰らないとだよな。。。」と慰めにも似た言葉をかけてくれるようになってくる。
しかし流石にこの時間帯になると、セラー側も店じまいが見えてくる頃で、売れていないアイテムの値下げ交渉が緩くなるチャンスでもある。絶対欲しいアイテムは早めの確保がマストですが、ちょっと高いな…という値段を序盤に告げられて迷っているアイテムを、この時間帯に再度尋ねると向こうから値段を下げてくれたりします。ここでようやく、この値段なら買える!というアイテムがちらほら。7時入場、そして16時にすべての予算を使い切るまで実に9時間の大激戦の末、なんとか納得いく本数とクオリティを満たす結果を手に入れることができました。
実際、他のバイヤーが気づかない掘り出し物にも出会えたりが多く、かなりラッキーだったと思います。正直なところ、このコロナ禍でリモート仕入が確立した今、こういう買い付けの現場から離れてしまったこともあり、なんとなく自分が現場に行くことの重要性を忘れかけていた気がします。行かなくても欲しいアイテムは手に入る。それでも、やはり現場に行かないと絶対に出会えないようなアイテムに、今回は多く巡り合うことができたと思いますし、何より時間を忘れて気が付いたらぶっ通しで9時間経っていた、みたいな10代のスリルと興奮と白熱のような感覚を味わえるのは、この現場にしかないということを思い知らされました。めちゃくちゃ楽しかった。
そして実際に買い集めた腕時計を眺めてみると、本当にドイツでしか買えないような面構えの腕時計ばかりだなーというのが第一印象。主にイギリスから仕入れている、スミスや英国宝飾系の美しくて華麗な腕時計からすると、非常に地味。煌めくようなゴールドケースや繊細な文字盤装飾はほとんどなく、極めて質実剛健で実用本意という精神がそのまま伝わってくるような奴らばかり。その魅力は、噛めば噛むほど味が出る、飽きのこない味。これまでヴィンテージウォッチ業界はおろかadvintageでも、ジャーマンウォッチの何たるかについてそこまで踏み込んで味わい尽くすということは、サンプル数が圧倒的に欠けていたため想像に頼る部分が大きかったと反省していますが、今回の買い付けで数多くのジャーマンウォッチ、そして当時ドイツ語圏で流通していた腕時計を探し求めることによってその真髄を味わうことができたと思います。
今回の収穫は今までadvintageで扱えなかったものも含め、魅力的であると同時に新しい発見があるものでした。もちろんそれらは圧倒的にマイナーなものばかりで、正直僕くらいしか買わないんじゃないかというアクの強いアイテムも多いので、まったく魅力を感じない人もいると思います。それでも、手探りだったジャーマンウォッチの構造をようやく確信を持って理解することができたのが大きい。得意としている英国系の腕時計とは毛色の異なる、新たに魅力的なジャンルが生まれました。
以上が今回のドイツ買い付けの総括です。この経験をお店で皆様にフィードバックしたいと思いますので、お暇があれば銀座店へ。既存のアイテムと今回仕入れたアイテムで、ジャーマンウォッチの魅力の答え合わせができると思います。是非。