スミスの腕時計にフォーカスする今月のテーマ”SMITHS, please!”ということで、advintageが独断と偏愛を持ってスミスの名品をご紹介していきます。

そのトップバッターに選んだのは、ロンドンのジュエラー〈J.W.ベンソン〉の別注でスミスが製作した腕時計。柔らかな金無垢のデニソンケースにゴールドシャイニーな文字盤が味わい深い一本です。

なぜあえてスミス名義の腕時計でない腕時計を最初に選んだかと言うと、今日5/6は英国王チャールズ3世の戴冠式が行われる日。そしてこの個体は今から70年前の1953年に挙行された、亡き女王エリザベス2世の戴冠式を記念して作られた特別なモデルだから。

裏蓋に刻印された王冠を戴いた女性の横顔はまさに女王の戴冠を意味しますが、この腕時計の力強いラグデザインもまた特別に設られたもので、数あるスミスの他のケースデザインには存在しない、唯一無二のデザイン。あたかも大英帝国を統べた王として、そして全英国民の母として統治した70年の威容を象徴するかのようです。

 

 

 

言わずと知れた〈スミス〉の名機「デラックス」。1952年から60年代後半まで長きにわたってスミスの屋台骨であり続けたベストセラーモデルです。

非常に数多くの文字盤のバリエーションが存在する中でもこちらは特に多くの機種に使用された代表作で、個人的にスミスが最も愛した文字盤だと思います。

レイズドダイヤルと呼ばれる、アラビア数字とクサビ型インデックスを立体的に、そしてゴールドで仕上げた美しくも力強いアワーマーカー、印象的なデュオトーン。いずれも極めて精緻で高い技術力による工芸品に近い逸品。ケースサイズも32mmと小さすぎず大きすぎない絶妙なバランス。ファースト・スミスとしてもお勧めしたい一本です。

ベルトは〈アノニム〉のビスポークオーダーが可能なクロコダイルをセット。こうしてみるとパテック・フィリップに見えなくもない…笑

 

 

 

名機「デラックス」の後継機種として王冠のロゴを戴くスミス第2のフラッグシップモデルが、この「インペリアル」。

クラシック&オーソドックスというスミスの伝統はそのままに、1960年代という新たな時代を見据えたミッドセンチュリー的なボリューム感のあるデザイン性が垣間見える逸品。

とりわけデニソン・ウォッチケース・カンパニーが手掛ける英国製のスクリューバックケース「アクアタイト」は高い希少性とともに、金無垢特有のずっしりとした重厚感とラグジュアリーが融合した唯一無二のルックスを生んでいます。

アクアタイトケースの気密性の高さゆえにメンテナンス性も高く、ユーティリティの面においても優れているためヴィンテージ初心者にもお勧めしたい一本。

“(anonym)”のビスポークベルトはクロコダイルのバーガンディを装着。”格”のある腕時計には”格”のあるレザーベルトを。

 

 

 

数あるスミス「デラックス」の文字盤デザイン。ユニークなものからクラシックなものまで様々ありますが、中でもほとんど唯一と言ってもいいのがこれ。

アラビア全数字にブルースチール針。advintageに並んでいるヴィンテージウォッチには比較的多い、極めてスタンダードなセッティングですが、ことスミスにおいてブルースチール針を採用するモデルが少なく、デラックスシリーズではこれが唯一のモデルになります。

しかもこの金無垢ケースを採用したモデルは当時の広告やスミスの製品カタログのどこにも載っておらず、しかもそのほとんどが”BR”つまり旧英国国鉄(British Railways)の退職する社員向けに贈られたプレゼンテーションモデル。あくまで「限定品」扱いだったようです。

ちなみに1950年代末から1960年代後半頃まで製造されたこのモデル、50年代まではこちらのようにアラビア数字インデックスがやや内側に配置されており、きゅっと詰まった顔が印象的。

ベルトはアノニムのビスポークオーダーが可能なワインハイマー社の最高級ボックスカーフ・ダークブラウン。極めて繊細な銀面の上品な輝きが美しく、しかもアップチャージ不要でおすすめのレザーです。

裏材に用いたのはデュプイのライニングではなく、コンチェリア800(オットチェント)社の同系色をチョイスしたほか、アッパー側のコバ付近の両サイドとベルトループに「捻入れ」呼ばれる溝を加えることで、よりクラシックでヴィンテージ風に仕上げています。
※捻入れはアップチャージ不要ですが、コバのスタイルはポリッシュ式のみ可能です。

 

 

 

フルステンレススチールケースが圧倒的に少ないスミスの腕時計。こちらはその希少なフルSS製、かつ35mmのマグナムケースを纏った「インペリアル」。

クラシックなスミスのデザイン群にあって珍しい、1960年代相応なモダンデザインが印象的な文字盤ですが、アイコニックなレッドモチーフを配したセンター秒針は健在です。

質実剛健なSSケースにエレガンスをプラスするため、ベルトはイルチア社のミュージアムカーフ/ワインレッドをアッパーに用いたアノニムのビスポークモデルをセット。

微妙なニュアンスを見せるアーティスティックなカラーリングと、繊細かつ力強い表情を持った銀面。唯一無二の個性を放つスミスのSSモデルの魅力を十二分に引き出しつつ、センター秒針のレッドモチーフとのリンキングも狙ったセッティングです。

 

 

 

スミスの「デラックス」シリーズの中でも最初期からリリースされた、平たい円筒形のボディに直線的でシャープなラグデザインを持つシリンダースタイルの金無垢の腕時計。

真正面から見た顔と、側面から見た横顔と、それぞれ異なるシルエットで表情を変えてくれるのがこのケースの魅力。製造を手掛けたのは英国の〈デニソン・ウォッチケース・カンパニー〉で、これは1950年代まで存在したデザインです。

そして意外に珍しいのがこの文字盤デザインです。オールアラビア数字のインデックスはスミスの腕時計の中では少数派。こちらも電気鋳造という伝統技法によって立体的に形成されたレイズド・フィギュア(Raised Figure) と呼ばれる高級感あふれるクラシックなインデックスデザイン。

ベルトはアノニム・ビスポークモデルの既製品ライン〈タキシード〉から、独自のフォールディング製法でライニングのブラウンをコバに露出させた「デュオ」。ゾンタ社が手掛けるブラック・ベビーカーフの上質で繊細な輝き。それが銀面とエッジの稜線に走ることで生まれる立体感が独特です。

ドレッシーでありながら、カジュアルな着こなしにも対応できる懐の深さも持ち合わせているというのがこのベルトの最大の個性だと思います。

 

 

 

数あるスミスの腕時計の中でも傑作の呼び声高い〈J.W.ベンソン〉のオーダーウォッチ。

スミスの腕時計製造の黎明期からJ.W.ベンソンはスミスに自社モデルの製造を依頼しており、いくつかのバリエーションも存在しますが、中でも初期から存在するローマ数字をアール・デコ調に意匠化したこちらの文字盤はスミス製ベンソンの代名詞的デザインとして長く愛されました。

装着したベルトは”anonym”のビスポークオーダーが可能なミュージアムカーフのネイビー。画像ではほとんど黒と見紛う色味ですが、ミュージアムカーフ特有の濃淡を持った独特の青の表情がブルースチール針と絶妙にマッチします。