今回資料を交えて考察してきた「腕時計のアール・デコ」というテーマ。
セクターダイヤルに代表されるような「分ける(=セクター)」という意識が根底に流れる新しいスタイルこそ、文字盤上の情報を切り分けることで美意識と機能性を両立することに成功したアール・デコのアイコンという考えに至りました。
このデザインは、いわゆるセクターダイヤルに限らず派生する様々なデザインが存在します。
複数のレジスター機能を備えるクロノグラフは、その情報量の多さゆえ文字盤を重層的に区分けすることで情報を整理し視認性を確保しているのはいうまでもありませんが、それと同様の方法がシンプルな三針時計にも用いられます。
 

 

こんなふうに、三針は結局スモセコ以外の時針と分針が大体分かりやすくなってればいいのに、文字盤の外側から分、時、余白、とわざわざ区別する線が重層的に描かれるパターンがこの時代に増えます。より視認性を高めるため、各々のゾーンでトーンを切り替えてツートーンに仕上げられているバリエーションも散見されます。
これも「分ける」というデザインの指向性はセクターダイヤルと同じ。もちろん、クロノグラフみたいにややこしいものではないため必要性の部分は疑問ですが、ここまで丁寧に描き込まれた線の連続は美しい幾何学模様となって見るものを魅了します。個人的にこのスタイルが一番好き。

最後にこんな珍しいダイヤルを。文字盤を斜め十字に切るライン、そしてそれぞれトーンを切り替えた「クリスクロス」と呼ばれるツートーンダイヤル。先に挙げた重層的な線を描くタイプのものとは、異なる発想。と思いきや、文字盤を4つのゾーンに「分ける」ことで3時間ごとのタイムゾーンを意識させている点で、やはり機能美とデコラティブが融合したアール・デコデザインそのもの。

 

 

 

光の差し込む加減でこのようにトーンが入れ替わる。実はこのダイヤルデザイン、同時代のロレックスもしばしば採用していました。でもこっちのほうがずっとかっこいい。