今月のテーマは、ある意味advintageのヴィンテージウォッチに普遍的に含まれる要素のひとつでもある、「アール・デコ」。
純粋にアール・デコというと当時のプロダクトデザインに見られた幾何学性を指向する装飾デザインの潮流をさし、それが腕時計に現れたさいたる例は角形時計でした。しばしばアイコニックに語られるローマ数字も、そのものはアール・デコが発祥というわけではありません。
アール・デコ全盛期の1920年代。偶然にも時を同じくして第一次世界大戦を契機に生まれた腕時計というジャンルにもその潮流が流れます。しかし実際のところ当時は実用性とは多少軸のずれた、デザイン偏重のものが多く見受けられました。インデックスも多くはアラビア数字が用いられていました。
アール・デコが本当の意味で腕時計のデザインとして成熟したのは、腕時計が懐中時計のシェアを凌駕しつつあった1930年代になってからのことです。ほとんど角形時計ばかりで過度に直線的なスタイルから、より機能的なモダニズムとの調和を見た当時の腕時計デザインは、陳腐な表現ですが本当に素晴らしいものばかりです。
極端に尖っていた20年代のアール・デコに、そうした機能性という調和をもたらしたのは、ロサンゼルスオリンピックであり、冒険家による長距離飛行であり、モータリゼーションでした。それらの活動において必須であった精度や視認性の要求は、アール・デコが腕時計に浸透し成熟する上で非常に重要な役割を果たしたことはいうまでもありません。
そんな中、腕時計が懐中時計にとって変わるに従ってしばしば用いられたのが、ローマ数字インデックスでした。直線的なスタイルはアール・デコと絶妙に調和し、しかも懐中時計への懐古的ニーズとも相まって1940年代以降も繰り返しリバイバルされており、現行品でもそのようなコンセプトが見受けられます。
今回フォーカスするアール・デコは、あくまで「腕時計の」アール・デコ。現代に至るまで腕時計にとって非常に大きな影響を与えたビッグキーワードでありながら、それほど具体的には紹介されてこなかったデザインの真の意味と価値に迫ります。