今回のテーマ、”SMITHS, please!”。
その魅力を、今回はちょっと変わった切り口でご紹介します。
◾️最高級のエクスプローラーモデル
スミスの腕時計の多くは、英国国内の企業から従業員に対し、永年勤続記念に贈るケースが多かったことは有名です。様々な企業がこうしたプレゼンテーションウォッチの慣習を持っていましたが、特にその名をしばしば見る企業として〈ブリティッシュ・レイルウェイズ〉や〈インペリアル・ケミカル・インダストリーズ〉などが挙げられます。
最も多いのが、金無垢の非防水モデル、つまりドレスウォッチラインでしたが、中でも自動車関連企業は景気が良かったのか、金無垢のスクリューバックケースを採用した贅沢なハイエンドラインを贈っていました。
ケースはご存知デニソン社製のアクアタイトケース。金無垢のボディはふくよかなシルエットと上品で柔らかな輝きを持ち、ずっしりとした重量感が魅力。実は金無垢の防水ケースというジャンル自体、オメガをはじめとするビッグブランドにほとんど限られていたので、まさにデニソン社の金無垢アクアタイトケースは極めて重要な存在なのです。
 

 

▲英国の老舗高級車メーカー〈ブリストル・カーズ〉と、その関連企業で航空機エンジン部門の〈ブリストル・シドレー〉による贈呈品。太っ腹です。
◾️スミスの愛した文字盤
スミスは、そのベストセラーモデル「デラックス」を発表した1952年から、晩年となる1960年代後半まで、長きにわたって使い続けた文字盤デザインがあります。アラビア数字と楔形インデックスを交互に配し、ミニッツインデックスをその内側に置くスタイルがそれです。
まさに、スミスが愛した文字盤。このデザインはミッドセンチュリーデザイン特有のボリューム感を持ちながら、アール・デコを彷彿とさせるクラシックなテイストが差し込まれたユニークなタッチ。ツートーンダイヤルも一般的には1950年代以前のトレンドであり、それが凝縮感のあるハンサムなルックスを生んでいるのです。

 

▲スミス名義以外に、他社名義の別注アイテムにも使われるこの文字盤。ディテールに微妙な差異があるのも味わい深いポイント。
◾️対の腕時計
そして特にスペシャリティの高いモデルがこちら。ガラードが別注した対の腕時計で、どちらも裏蓋に刻印を持たない、数少ない正規販売で流通した個体です。

 

 

見ての通り、非常にデザイン性の近い両者ですが、見事に役割分担をしています。左はインデックス、針に夜光塗料を伴い、堅牢なアクアタイトケースを採用したスポーツ・ミリタリーモデルに対して、右はアップライトインデックスにブルースチール針、スナップバックケースという典型的なドレスウォッチ。

金無垢ケースという共通項を持ち、メインテーマはドレス。しかし方向性は異なる対の腕時計。シーンに合わせて使い分けることの美学を体現しています。
◾️初期の別注モデル
1947年に英国で初めて腕時計ムーブメントの本格的な国産化に成功したスミス。いわば"MADE IN ENGLAND"という「称号」を持つスミスの腕時計には、当初から国内のジュエラーも各社熱い視線を送っていたようです。
控えめなアラビア数字やミニッツトラック、上質なブルースチールの時分針など、素朴ながらプリミティブな魅力に溢れた文字盤デザインに、デニソンケース。このフォーマットに自社ブランドを冠した別注品のオファーが、国内の宝飾品店を中心に多く寄せられていました。

 

▲左から、〈ジェームズ・ウォーカー〉、〈トーマス・ラッセル〉、〈J.W.ベンソン〉、そしてスミスのオリジナル。いずれも1947年〜1950年に製造された初期モデルです。リリース直後から別注に対応していたスミスも流石というべきか、すごい。