24時間表示のインデックスが特徴的な、一対の腕時計。両者とも1940年代に製造された〈ウイットナー〉のミリタリーモデルですが、こちらのモデルは左のセンターセコンド仕様がよく知られています。
実際には、右のスモールセコンドモデルもほんのわずかに作られていました。年代もそちらの方が古く、ステップドベゼルのケースも相俟って貴重な逸品と言えるのですが、今回の主役はセンターセコンドのほう。センターセコンド仕様の腕時計が今月のテーマとなります。
時計の文字盤は、スモールセコンド→センターセコンドと進化してきました。ヴィンテージウォッチが好きな人の多くがスモールセコンドを好むのも、そのせいかもしれません。
20世紀以前の懐中時計の時代は、スモールセコンドが時計の文字盤が主流となります。文字盤サイズの大きい懐中時計であれば、スモールセコンドであっても秒の視認はそれほど苦ではなかったと思いますが、しかし腕時計ともなれば話は別。ナースが脈拍計測を行う際、スポーツなどの競技の際、クロノメーターで自分の位置を経度と緯度から導き出す際など、なにかと秒単位で計測を行うことが増えてくると、小さな文字盤のスモールセコンドでは大変です。
そこで発明されたのがセンターセコンドというアイディア。その端緒は第一次大戦後のナース用の腕時計とされていますが、このスタイルが当たり前となった現在と違い、当時主流であったスモールセコンドのムーブメントはそれ専用に輪列(歯車の並び)が組まれており、実際にセンターセコンドを実現するのはそう簡単なことではなかったようです。
苦肉の策として考案されたのが、ムーブメントに連結役の歯車をひとつ上乗せし、スモールセコンドに伝わる動力を中央に据えた秒針に伝えるという方法。いわゆる「出車式」の簡易式センターセコンドムーブメントはこうして生まれたわけですが、発想自体はクロノグラフと同様、ムーブメントを2階建てにして解決するというものでした。
そういう視点でセンターセコンドの腕時計を眺めていると、デザイン面においてもクロノグラフに近い存在感をおぼえます。「計器」として発達したクロノグラフは、文字盤に複数のサブダイヤルを備えているものの、そのロングテールなセンターセコンドが何より際立った特徴と言えます。欧米では「スウィープセコンド(sweep second)」とも呼ばれますが、まるで生き物のように円を描く秒針の動きは、改めて機械式腕時計が「生きている」ことを強く実感させてくれるのです。
こちらは〈アルピナ〉のクロノグラフと、〈マセイ・ティソ〉のバンパー・オートマティック。レイルウェイが効果的に用いられた文字盤デザイン、ステップドベゼルや丸みを帯びたボリューミーなSSケースなど、共通項の多い両者。特にマセイ・ティソはレイルウェイのミニッツインデックスに加えて、外周部に細かい目盛りの付いたセコンドインデックスが追加されており、クロノグラフのタキメーターにも似た独特のデザインです。装飾品としてよりも、「計器」寄りの存在感が伝わる対の腕時計。
ギミッキーなセンターセコンドの動きは、スモールセコンドにはない特別な魅力です。
毎週火曜日、渋谷にて。ご都合が合えば、是非。