シンプルな細身のバトンタイプの針は、意外なほど少ないのはあまり知られていないかもしれません。IWCなど一部の高級時計ブランドに見られる程度ですが、それがブルースチールとなるとさらにその数は減ります。
しかしながら、このブルースチールのバトン針を好んで採用するのが、〈スミス〉をはじめとする英国時計。特にスミスのアーリーモデルは、そのほとんどがこのスタイルの針を採用しています。
スミス以外にも、当時英国の宝飾品店で販売されていた金無垢ケース等のショップウォッチや、ロレックスのディフュージョンブランドとして知られる〈オイスター・ウォッチ・カンパニー〉も、英国市場向けのモデルには同様の針が見られます。
 

控えめで素朴な文字盤デザインの多い1940年代の英国時計には、まさにこのブルースチール・バトン針がベストマッチ。
 

最も有名で、かつ歴史の古いデコラティブな針デザインと言えば、このブレゲ針。懐中時計全盛期から用いられており、高級時計ブランド〈ブレゲ〉の始祖、アブラアン・ルイ・ブレゲが創始したと言われるこのデザインは、モチーフの丸穴が先端方向へ微妙に寄っているのが正統。ブレゲの代名詞である同時に、他ブランドでも好んで採用される人気の高い針です。上の2本はいずれも銀無垢ケース、ポーセリンダイヤルという、1800年代の懐中時計を彷彿とさせるディテールとともに、ブルースチールのブレゲ針が上品に輝いています。
 

最後に、1930年代以降ほとんど見られなくなった「カセドラル」と呼ばれる針。ゴシック大聖堂(Cathedral)の尖塔を思わせるモチーフを特徴とし、基本的に夜光等は入らないスケレットデザインとなります。腕時計よりも懐中時計に主に用いられた針としても知られていますが、その複雑な構造を腕時計の小さな針で構築することは、当時のコストカットの流れから淘汰されていった結果なのかもしれません。
ブルースチールの針と一口に言っても、そこには時代や国によって様々なデザイン性を見出すことができます。針が最終的なデザインの方向性を決めることもしばしば。ブランドだけが腕時計を選ぶ選択基準という刷り込みを取っ払えば、アンティークウォッチはもっと面白くなる。