メイド・イン・イングランドにこだわり続けた孤高のブランド、〈スミス〉。

スミスの歴史は、1851年にサミュエル・スミスがロンドンで創業した宝飾品・時計販売店から始まります。古くはスイスと肩を並べる時計製造技術を持っていた英国でしたが、二度の世界大戦によって老舗メーカーの工場が壊滅的な被害を受け、そのブランドの多くはスイス製のムーブメントにシフトせざるを得ませんでした。
一方スミス社は、元来持っていた高い時計製造技術を生かし、当時隆盛したモータースポーツの分野において、車載時計やスピードメーターの製造で危機を切り抜けました。結果スミスのスピードメーターはアストン・マーティンやローバー、トライアンフといった英国メーカーにこぞって採用されることになります。
戦後になってスミスは、新たに腕時計の製造を開始。ロンドン近郊、チェルトナムの自社工場で作られる純英国製の腕時計は、1953年に新たな画期を迎えます。その年ジョン・ハント率いる英国登山隊が人類初のエヴェレスト登頂を目指し、その頂に立ったエドモンド・ヒラリー卿がスミスの「デラックス」を着用していたのです。この歴史的偉業により、スミスの腕時計の信頼は揺るぎないものとなりました。
これ皮切りに、1950年代から1960年代にかけて数多くの腕時計をリリースし、スミスは英国製時計メーカーとして不動の地位を得ます。しかし1960年代後半、電池式のクオーツ時計が開発されると、いわゆるクォーツショックがスイスを中心とするヨーロッパの時計産業を襲い、星の数ほどあった中小の機械式時計工房は、そのほとんどが閉鎖に追い込まれました。オメガ、ロンジンといった名門が、クオーツムーブメントの導入に舵を取って生きながらえる中、スミスは英国製の機械式ムーブメントにこだわり続けた結果、時計製造分野からの撤退を余儀なくされました。
スミス特有の控えめながら芯の通った質実剛健な雰囲気は、英国製にこだわって散ったスミスの矜持が生んだ、唯一無二の魅力と言えます。
 

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