複雑さの中にシンプリシティを同居させるということ。
それは視認性を成立させるためのデザイナーの努力のたまもの。
複雑であることもシンプルであることも、どちらにも格別の魅力がありますが、それらを見事に両立させているのが今回の2本です。

 

まずは1940年代に《モバード》が生んだ、記念碑的なカレンダーウォッチ「カレンドマティック」。
 

アンティーク 腕時計

月と曜日を小窓で表示し、ダイヤル外周の日付をポインターで指し示す、トリプルカレンダーと呼ばれる複数のカレンダー機能を備えた複雑時計。さらに当時自動巻きのカレンダーウォッチとしては世界初の、バンパー式自動巻き機構を装備している変わり種。
さらにこのモデルが他のカレンダーウォッチよりも頭ひとつ抜けた存在であったのは、デイトポインターが月末(31日)から翌月(1日)に移行する際、マンスリー表示も連動して自動で送る機能も世界で初めて搭載したことでした。それまでマンスリー表示は手動で送る必要がありましたが、世界に先駆けてモバードがマンスリー自動送り機能を開発に成功しました。さすがはムーブメントのデパート、と言ったところ。
さらに、ステンレススチールケースの文字盤側の表面に金のぶ厚い層を載せた、ゴールドトップと呼ばれるユニークなケース仕様も大きな特徴。いま商品化するとコストがとんでもない額になるでしょうね。ゴールドプレートのリューズ、早送り用プッシャーに至るまで、すべてがフルオリジナル。

 

もう一本は、高級機種バルジュー23を搭載した《アルピナ》のクロノグラフ。

 

アンティーク 腕時計

横溢する数字の複雑さを感じさせないハンサムな文字盤。その源はミニッツインデックスに配されたグレーの配色にあり、文字盤上の機能を内側と外側にはっきりと分けることで、高い視認性を実現しています。
アラビア全数字インデックスを内側に置くことで、全体的にきゅっと詰まった凝縮感を生む一方、外周いっぱいに青字で描かれたタキメーターはレイルウェイ・インデックスを採用。タキメーターの数値が下るにつれて間隔が大きくなる独特のデザインは、パルスメーター以外で使われているのは初めて見ました。
ケースもちょっと珍しい形。丸みを帯びたボリューミーなボディに、薄いステップドベゼル。繊細、剛胆という両極端なイメージが同時に飛び込んできます。
 

三針に比べると、複雑時計は当然ながら多くの情報量を文字盤に搭載しています。使う人のことを思い、細部にまで行き届いた配慮と工夫により、こうした情報が破綻なく活用できて、美しい。ある意味奇跡的なことじゃないかとさえ感じます。

 

アンティーク 腕時計

 

ひとまずここで英国買付け商品のご紹介はおわり。

他にも個性的なアイテムが手に入っていますので、お店の方で是非。

今日の渋谷店はめずらしく晴天が持ちそうです。