英国には歴史ある宝飾品店がいくつか存在しています。
このブログでもすでにご紹介した《スミス(S. Smiths & Sons)》や《J.W.ベンソン》といった英国の大変有名なブランドは、そのルーツは時計以外に女性向けの装飾品や金銀製品なども取り扱う、総合的なジュエラー(宝飾品店)でした。
特にヴィクトリアン・スタイルと呼ばれる英国宝飾品が歴史上最も隆盛した19世紀には、上記の2社以外に《ゴールドスミス&シルバースミス》社や《パーキンス&ゴットー》社、《アレクサンダー・クラーク》といった数多くのジュエラーが、リージェント・ストリートやボンド・ストリートといったロンドンのショッピング街に軒を連ねました。今回ご紹介する《ガラード》はそれらに先駆けて18世紀にイギリスで創業した、「世界で最も古い宝石商」とも言われています。
その母体となったのは、1722年に金細工師ジョージ・ウィックスが設立した宝飾品店で、英国のゴールドスミス・ホール(金細工商同業組合)に加盟店のひとつでした。1735年にロンドン中心部のヘイマーケットに店舗を構えたため、同社ではこの年を正式な創業年としているようです。創業者ウィックスの死後、1802年からロバート・ガラードによって経営が引き継がれます。彼の代から正式に《ガラード》の社名が用いられることとなりました。
さらに1837年にはヴィクトリア女王が英国女王に戴冠。彼女の治下、1901年まで続く64年間は、英国で宝飾品が最も華やかなりし時期と言われる時代が到来します。すでに由緒正しい英国屈指のジュエラーであったガラードは、1842年にヴィクトリア女王より英国王室御用達の指定を受け、いわゆる「クラウン・ジュエラー」として王冠の納入を担当。以後エリザベス2世治下の2007年まで、代々ガラードが王室の王冠やティアラと言った宝飾品の製造やメンテナンスを行う大任を全うしました。
 

 

ちなみにガラードは現在もその由緒ある歴史を継続していますが、1915年にガラード・エンジニアリング&マニュファクチュアリング・カンパニーという子会社を設立し、レコード用のターンテーブルの製造をしていたというのも意外な歴史かも知れません。
こうしてみてみると、伝統的に英国の時計文化をリードした宝飾品店の存在感の大きさに驚きます。現代の日本的な感覚からすると、腕時計は時計店もしくは百貨店で、という印象ですが、当時のイギリスでは宝石や高級アクセサリーなどと同列に時計が置かれていました。逆に日本では精密機械という専門的な向きが強いせいか、伝統的に眼鏡店が時計を販売するケースが目立ちます。
仕入れでイギリスを訪れる際にいつも思うのは、その保存環境の良さ。古い腕時計や懐中時計が、金銀製品やその他の宝飾品と同様とても大切に扱われているのが印象的です。道具としてはもちろん、装飾品として強く意識されていたのが英国の時計だとすると、イギリス人の多くが古い時計を大切に扱うのは、やはり伝統的な宝飾品店によるところが大きかったのではないかという気もします。