なんとなく表象的でぼんやりと捉えられがちなアール・デコというジャンル。
アール・デコと時計の関係については、過去のテーマでも扱ってきましたし、他でも多くの解説がなされてきました。第一次世界大戦直後の急速な機械化、高速化、大量生産という時代背景をベースに、幾何学的な装飾芸術が建築をはじめとする様々な造形に影響を与え、特に20年代から30年代にかけて急速に開発が進んだ腕時計においても、多角形をはじめとする様々な形状のケース、セクターダイヤルに代表される幾何学的に展開される文字盤デザインなどが人気を博したというのが一般的な見解です。
しかし今回はそうした従来の鑑賞的な見方よりも一歩アカデミックに踏み込んだ、図像学的な視点でこれらの腕時計を眺めてみようと思います。この時期の腕時計はデコラティブなデザインの中にも時計としての機能が必ず織り込まれていて、あるいは逆に機能がその約束を守りながらデザインに変換されています。それは中世の宗教画のように織り込まれていて、それらの意味を読み解いていく、いわば謎解きに似た面白さがあります。