テーマは「黒の陰影」。
ミリタリーウォッチの代名詞とも言える黒文字盤の腕時計が今月のテーマですが、本来はドレスウォッチ由来の高貴なデザイン。インデックスのコントラストを強めることで腕時計としての視認性に優れる特徴からミリタリーやスポーツなどのユーティリティユースに多様される「用の美」として知られます。
ブラックギルトダイヤル、あるいは鏡のような表面からミラーダイヤルとも呼ばれる漆黒の光沢をたたえたものは、そのシックで美しいルックスから高い人気を誇ります。中にはいわゆる「下地出し」で仕上げられた光り輝くゴールドやシルバーのインデックスも特徴として語られます。
下地となるゴールド等の文字盤に特殊なコーティングインクでインデックスを描き、その上にブラックの塗装を施した後、最後にコーティングだけを専用の溶剤で落とすと下地のゴールドがインデックスとして描き出されるという、非常に手の込んだ製法です。
単なるプリントの場合、摩擦や経年劣化などによってインデックスが薄くなったり消えたりすることがありますが、下地出しの場合その心配はなく、漆黒の文字盤にインデックスがくっきりと光を受けて浮かび上がる独特の美しい文字盤を永く保つことができます。多少暗かろうと視認性を損なわない利便性に加え、高級感を兼ね備えた人気の高いディテールのひとつ。
それはまるで夜の湖面を思わせる底の見えない深い黒の美しさもさることながら、その上に脚光を浴びて引き立つ夜光塗料や下地出しのゴールドインデックスが、まるで湖面に浮かぶかのように映ります。

 

 

 

また中には長い年月を経てさまざまに変化したユニークな表情を持つ黒文字盤も存在します。微妙に茶色づくものやうっすらと白みを持つもの、マーブルのような模様、マットな表情などを持ち、まるで印象派の絵画のように様々な陰影を持って揺らぐ、高い芸術性を内包するものも存在します。
たとえば先にあげたブラックギルトダイヤルの中でも特にごく一部に見られる経年変化に、ギャラクシーあるいはガルヴァニックダイヤルと呼ばれるものがあります。経年によって表面の光沢層にひび割れが起き、それが細かく連鎖することで銀河の星々をたたえた夜空のような芸術的な模様を描きます。

 

 

 

曇りのない漆黒の美しさもさることながら、こうした経年変化によって生じるパティーナの美を持つ黒文字盤の魅力もまた、じっくりと味わうべき価値があります。