今月のテーマ、センターセコンド。

その原点は、ナースウォッチあるいはドクターズウォッチとも言われています。
 

アンティーク 腕時計

こちらの懐中時計はおそらく1920年代製のもので、実際にとある看護婦に贈られたもの。銀無垢製のケースは500円玉程度の小振りなサイズで、ドイツの教会堂付き病院で25年勤続記念で贈られたことを示す刻印が彫られています。
現在もそうですが、ナースが普段身につけている時計は、衛生的な理由から腕時計ではなく懐中時計やペンダントウォッチが主流。彼らは秒単位での計測を行うことが多く、正確な秒視認には不向きなスモールセコンドからセンターセコンドへと、本格的な需要が高まったのです。
 

 

アンティーク 腕時計

 

特にその時期は第一次大戦と第二次大戦の戦間期。このセンターセコンドの懐中時計には、アラビア数字や時分針はもちろん、センター秒針にも夜光塗料が張られており、野戦病院や暗所での作業も想定されています。アール・デコの全盛期とも重なって、視認性の高いレイルウェイ・インデックスがミリタリーウォッチに必須となる時期に生まれたこの懐中時計は、資料的にも非常に興味深い。

 

 

こうした初期のセンターセコンドのムーブメントは、すべてスモールセコンドのムーブメントを改造した、いわゆる「出車式」のインダイレクト・センターセコンドが使用されていました。下の画像で金色の歯車が一番上に露出していますが、これが出車です。

 

アンティーク 腕時計

このムーブメントは、通常6時位置にくる秒針の動力を中央に伝達するための歯車(出車)を追加することでセンターセコンドを実現しており、1950年代初頭まではこのスタイルのムーブメントが一般的に用いられていました。出車式から本中三針と呼ばれる現代的なダイレクト式のセンターセコンドモデルが開発されるまで、かなりの長期を要することになります。

 

 

アンティーク 腕時計

 

左は前回新入荷でご紹介したパルスメーター機能付きの腕時計。医療現場で要求されたデザインと機能を出自としながら、時代背景もなにもかも違う両者を眺めると、計測機械であり装飾品でもある時計の奥深さを感じずにはいられません。こうして見てみると、時計が実際に「時を計る道具」としての性格を一層色濃くした、その画期がセンターセコンドの登場だと言えます。