防水ケースはスクリューバックだけではありません。
高い金属加工技術が限られたメーカーしか持っていなかった1940年代には、実に様々な防水設計の様式が見られました。
まずはこちらにご紹介する、ミリタリーテイストの対の腕時計。
気密性と防水性を高めるため、非常に手の込んだケース構造が採用されています。
左の《ピアース》の腕時計は、珍しい6つビス固定式の裏蓋が採用されており、内部は鉛パッキンによって気密性を確保しています。このような大げさな防水構造はピアースならではで、それゆえの存在感溢れるケースが特徴です。
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「パラショック」というシリーズで、「パラ(para)」が意味するところは「パラレル」、つまり並行的にショックを緩和するシステムを持った腕時計ということで、「戦場でも地元でも」幅広いシーンでの使用に耐える唯一の腕時計だと謳っています。”AIRTIGHT”という、気密性を強調しているところも注目に値します。
さて、もう一本の《ヘルヴェティア》の腕時計。
こちらもセンターセコンドモデルとなりますが、珍しい自動巻きムーブメントを搭載しています。
こちらはいわゆるプッシュアウト式の2ピースケースが特徴で、お椀のようなバックケースにムーブメントと文字盤が収められ、風防を被せた上からベゼルケースで挟み込む構造となっています。リューズはジョイント式巻真を用いた防水仕様のため、巻真穴からケース内部への水分の侵入を防ぐ仕組み。
さらにこちらの《マリタイム》という腕時計も、特徴的な防水ケースの仕組みを持っています。
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この腕時計の製造元である《インペリアル・ウォッチ・カンパニー》は、こうしたビス留め防水ケースを得意としたメーカー。その他のモデルにも同じ仕様が見られます。
基本的な構造は《ヘルヴェティア》と同様の、プッシュアウト式。《マリタイム》の方には、これに4カ所のビス留めを追加し、さらに堅牢さを増した構造になっています。
今月は防水系の腕時計がメインということで、時計の構造部分に関わるテーマが続きました。やや難しい内容だったかもしれませんが、腕時計の価値に大きく関わる部分として知っておいて損は無いと思います。
こうしたプロダクトデザインや加工技術の歴史は、同時にコストダウンを図る歴史でもあります。加工技術が進歩し、スクリューバックのネジを切る技術がどのメーカーにも満遍なく行き渡ると、ほぼ全てのメーカーが画一的にスクリューバックケースの腕時計しか作らなくなってしまいます。今回ご紹介したようなユニークなケース構造は淘汰され、消えて行ったのです。
複雑なパーツで構成されたこれらの旧型の防水ケースを見ると、明らかに手間とコストが掛かっていることを実感させられます。当時の技術者の試行錯誤の跡として、こうした部分は尊重されるべきだと思います。