ここに2本の腕時計があります。
《リップ》の最高級モデル「クロノメーター・リップ」と《テルミドール》のクロノグラフ。どちらも1960年代のフランスから。
前者はフランスのみならず世界的にも名の知れたメーカーによる、一分の隙もない、王道感のある金無垢時計。
グランドメゾンのアンティーク・アーカイヴを意識した近年の復刻モデルにも好んで使用される、間違いのないデザイン。
後者はあまり聞かないフレンチメーカーが作った、挑戦的なデザインのダイバーズ・クロノ。
スポーツ、ミリタリー、いろいろな要素が混ざりつつ、遊び心とシックが両輪でバランスをとったフレンチデザイン。
前者は、クラス一番の秀才。
後者は、いわば冒険者。
業界ではあまり注目されないフレンチウォッチ。グラフィカルかつ、良い意味でギミッキーなデザインはフランス人の趣向を体現し、《イェマ》や《ル・ジュール》などのフレンチブランドに好まれました。
こちらのテルミドールはその要素が強く見られますが、その突き抜けたデザイン性ばかりが先行しチープに成り下がる多数派とは異なり、素材や仕上げのクオリティはハイレベル。
対してリップの腕時計が放つ王道感からは、世界市場で勝負するためにスイス時計という絶対的な主流を意識し、あえてフレンチデザインと決別した同社の強い意志が透けて見えます。
同時代の、同じ国で生まれた二つの異なる顔が、それぞれの勝負する舞台や世界観の違いを暗示しているようで、面白い。 こういう見方が許されるのも、アンティークウォッチだけかもしれません。
どちらも藍が似合う。素敵な共通項もお見逃し無く。