先日の渋谷では、英国時計を中心としたラインナップをご用意させていただきました。
まずは英国製腕時計の第一人者の《スミス》から。 ムーブメントまで自社で製造していた英国のマニュファクチュールとして不動の地位を誇っていますが、自社だけでなく国内のジュエラー向けの腕時計もOEMとして製造していたりと、英国時計の屋台骨としても活躍していました。
スミスの代表モデル「デラックス」。文字盤表面のホリゾンタルラインが個性的な一本で、9K金無垢ケースが採用されています。スミスが腕時計の製造を正式にリリースしたのが1947年。そしてデラックスシリーズがリリースされるのが1952年なので、スミスの腕時計創成期からあるベストセラーモデルと言えます。こちらの個体は1950年代後半のもの。
 

アンティーク 腕時計

スミスはデザインのバリエーションも豊富。とくにデラックスやアストラルといったスミスの代表モデルはスモールセコンドやセンターセコンドだけでなく、その文字盤デザインの豊富さにも目を見張るものがあります。ケースの材質や構造にもドレッシーなものからタフなものまで様々。
こちらは同じくデラックスですが、やや大振りなサイズ感とステンレススチール製の武骨な硬質感が魅力的。デニソン社製のアクアタイト・ケースと呼ばれるねじ込み式の防水構造となっています。1950年代。
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次はスミスのモデル群の中でも生産数が少ないモデルとして知られる「エベレスト」。1953年にスミスのデラックスを着用したサー・エドモンド・ヒラリー がエベレスト登頂を果たしたことを記念して作られた、フラッグシップモデル。こちらは1960年代製の自動巻きムーブメントを備えたモデルです。
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もうひとつ、同じくステンレススチール製のケースのスミス。ですがこちらは1940年代後期、スミス製腕時計の最初期に製造された希少な一本です。モデル名がない、”SMITHS”のブランド名のみが見られる文字盤が特徴で、当時は小売店で一般販売されたものは少なく、国内の企業が社員の表彰・贈呈用としてのプレゼンテーションウォッチが主に見られます。
 
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デラックスがリリースされる以前の初期型モデルはデザインバリエーションはそれほど多くなく、アラビア数字と針、ケースが異なる程度。それでも、後年のモデルには見られない独特の可愛らしいデザインは、麻薬的な中毒性があります。
ちなみに右から2番目はスミスではなく、筆記体で”Tho. Russel & Son”のブランド名が文字盤に見られます。これはスミスがOEMとして英国のジュエラー《トーマス・ラッセル&サン》向けに製造した個体。他のスミスとほぼ同じデザインでブランド名のみ変更されています。同様のOEMで製造した販売店向けの個体は、他にも《J.W.ベンソン》のものが有名です。
 
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こちらは1950年代にスミスがOEM製造した《J.W.ベンソン》の腕時計。スミスの「トロピカル」というモデルのデザインをベースに、ブランド名のみベンソンに変更されています。ケースは9Kの金無垢。このように、当時スミスはいくつかのフォーマットを用意し、クライアントに選ばせるというセミオーダー形式でOEM受注を行っていたようです。ちなみにベンソンはスミスだけでなく、スイスの《シーマ(CYMA)》やドイツの《ラコ(LACO)》など、複数のOEM先を持っていた珍しいブランドでもありました。
 
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まだまだあります。こちらは「クラウン・ジュエラー」として知られる、英国王室御用達の宝飾品店《ガラード》の腕時計。ガラードは基本的にスイス製のムーブメントを輸入し、それ以外を国内で組み上げて自社の腕時計を製造していました。ケースはやはり9K金無垢。イギリスには特にこうしたジュエラーが自社ブランドを冠した時計を販売することが顕著に見られますが、その方式も様々だったことが分かります。
 
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続いての3本。右から、《ゴールドスミス&シルバースミス》、《オメガ》、《チュードル》。
 
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《ゴールドスミス&シルバースミス》は1880年に創業した宝石と金銀製品の小売店。こちらもガラード同様、スイス製のムーブメントを仕入れ、英国製の9K金無垢ケースに組み上げて作られた個体になります。
《オメガ》は言わずと知れたスイスの名門ブランド。ですがこちらはケースを英国のデニソン社が製造し、イギリス市場向けに販売された、毛色の異なる一本。時分針の下部にイギリス・チェルトナムのジュエラーの名前が記されています。そしてケースはやはり、9Kの金無垢。9Kは基本的に英国の金製品にしか見られません。
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最後に《チュードル》。ロレックスのディフュージョンブランドとして知られるブランドですが、ロレックスは英国出身の時計メーカーであったことはそれほど知られていないかもしれません。英国国民に馴染みの深いテューダー家の紋章「テューダー・ローズ」を用いたことで人気を博したことは有名で、特に1950年代以前のスポーツモデルをリリースする以前のチュードルは、やはりスミスなどの英国時計に近い可愛らしいルックスが目立ちます。
今回はスミスを中心に、ほとんど知られていないブランドから有名ブランドまで、やや多めのボリュームでご紹介しました。それらを「英国時計」というエッセンスに絞って見てみると、無名ブランドでもその魅力を十分に感じることができ、有名ブランドはその個体の個性がより際立ちます。
英国時計は個人的にかなり思い入れがあるため商品数も比較的多いのですが、なにぶん当日お持ちできる本数に限りがあるため、この日ご紹介できなかったもの多数ありました。英国時計特集は是非第二弾も企画したいと思います。