今まで主にイギリスのブランドを取り扱っていたこの企画ですが、今回はフランスの時計ブランド、《リップ》の歴史をとりあげます。
日本では知る人ぞ知る、むしろ知らない人の方が多いんじゃないかといった印象のリップですが、フランスでは国民的な人気を誇る有名な時計メーカー。創業の地ブザンソンは、当時フランスの時計製造の中心地です。時計メーカーが無数に存在した当時、スイス以外のヨーロッパで時計製造を行っていたのは、主にドイツのシュヴァルツヴァルトとグラスヒュッテ、そしてフランスのブザンソンでした。
 


 

1867年、エマニュエル・リップマンが当地で創業した時計工房《コントワール・リップマン》がリップの前身で、当時は主に地元ブザンソンやスイスのメーカーからムーブメントを仕入れて時計を組み立てる、いわゆるエタブリスールとしての活動が主でした。
その後エマニュエルの息子エルネストとカミーユが同社に合流して株式会社化すると、自社ムーブメントの開発を開始します。 1900年頃に完成したのが、キャリバー20。直径20mmのムーブメントで、当時リストレットと呼ばれた初期の腕時計に使用されました。
 

1907年にブザンソンに自社工場を建設したことを契機に、リップは数多くの自社ムーブメントを開発し、名実共にマニュファクチュールとして大きな名声を得ることになります。主に腕時計を中心にリリースするのは、1920年代に入ってからと言われています。
下はリップが腕時計をリリースした初期の傑作、"T18"。トノー(Tonneau=樽)形の18mmムーブメントというのが名称の由来で、元英国首相チャーチルに寄贈されたことでも知られる角型の腕時計に搭載されたモデルです。リップのムーブメントは一貫して、華麗な装飾やスタイリッシュなデザインとは無縁ではありますが、いかにも頑丈で質実剛健、精度の信頼性も高いのが特徴。
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こちらもリップの名機のひとつ、"R25"。ラウンド(Round)シェイプの25mmのムーブメントです。直線的なブリッジのレイアウトが特徴的で、こちらも華麗さは無いものの、頑丈そうな作りとなっています。
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複雑時計というよりも、シンプルでオーセンティックな三針時計がリップの真骨頂。プラクティカルなアンティークウォッチとしては、英国のスミス社と非常に共通点の多いメーカーのように思います。独特の可愛らしさが魅力の英国時計に対して、どちらかというとモダンでエレガントなルックスが、リップの魅力ではないでしょうか。
 

 

 

余談ですが、リップは当時の時計販売店の商慣習に革命をもたらした会社でもありました。当時の時計小売店は、時計のダイヤルに自社名を入れたオリジナルの腕時計をメーカーから仕入れ、価格も店によって自由に定めて販売していました。同時に保証やアフターサービスも店舗毎に行っていましたが、リップはあえて小売店のオリジナルの腕時計の製造は行わず、リップの腕時計をリップが定めた価格で小売店に販売させるかわりに、アフターサービス等もリップが全国レベルで引き受けるという戦略に出ました。
こうした「リップ式」の優れた品質保証システムの確立に成功し、フランス有数の時計ブランドへの飛躍を可能にしたといっても過言ではありません。