英国が生んだステンレスチール製の腕時計用ブレスレット、《ボンクリップ》。

「バンブーブレスレット」と呼ばれる独特の形状が特徴で、年代によってロゴが筆記体からブロック体に変更が加わるものの、全体的なデザインはほととんど変わりません。かつてはロレックスのバブルバックモデルなどにも標準装備されたこともあり、知る人ぞ知るアイテムながら、その詳細については驚く程乏しいのが実際のところです。今回は謎の多いこのアイテムをフィーチャーしてみたいと思います。
ボンクリップという名称自体は、会社ではなくあくまで商品名。独特の装着方式から由来していると思われます。実際に1930年3月6日に英国特許庁より特許を取得した際は、その提出者は”DUDLEY RUSSEL HOWITT of 67 Hatton Garden, London”とあります。ダッドリー・ラッセル・ホーウィット氏によるこの発明は特許番号に"349657"(ドイツでは"577586")を与えられており、ボンクリップのブレスレットには全てこのナンバーが刻印されています。そしてパテントナンバーと併記される”B.H.B. & S”の刻印。これがおそらくボンクリップを製造していた会社名と思われます。



ボンクリップはイギリス空軍(ROYAL AIR FORCE=RAF)との関係が深く、多くの英国軍のミリタリーウォッチに着用されていたため、主に軍用アイテムとして知られています。しかしながらこのブレスレットは本来軍用目的に開発されたわけではなく、ジュエラーが販売する腕時計のために作られたものと言われています。
当時まだ一般にはそれほど浸透していなかった腕時計のベルトの装着に慣れない人たちのために、簡便かつ高級感のあるベルトの必要性から生まれたアイテムであったようです。
それが、自由にサイズを調整できる画期的なフィッティングシステムに加え、フライトジャケットの袖の上からでも装着できる最大尺の長さといった特性から、イギリス空軍が独自にミリタリーウォッチのベルトとして正式に採用されることになりました。狭いコックピットでパイロットが腕時計を使用する際は、ジャケットの袖の上だけではなく、場合によっては膝に着用することもあったと言われています。ごく希ではありますが、延長用のエクスパンジョンパーツを追加することで一般的なものより大幅に最大尺をとることが可能にした個体も見られます。

上の資料に見られるように、IWC(INTERNATIONAL WATCH CO.)、レマニア、スミスによる英国軍用ミリタリーウォッチに採用されていました。その採用期間は長く、遅くとも1980年頃までは正式に用いられており、その後はおなじみNATO軍のナイロンストラップが、ボンクリップに代わる英国軍制腕時計ベルトとして採用されます。
ちなみにボンクリップ以外にも、実は当時様々なメーカーがバンブースタイルのブレスレットを販売していました。ロレックスのブレスレットの製造で知られる《ゲイ・フレアー(GAY FRERES)》社をはじめ、それらのメーカーは決して有名ではありません。機能的にはボンクリップとほとんど同じですが、質感や細部のデザイン、アジャスター部分などにそれぞれのブランドの個性が見られます。
ミリタリーウォッチはもちろん、本来の企画意図に従ってオーセンティックな腕時計に着用するのもまた一興。ヴィンテージ・ステンレススチールの風合いもさることながら、インダストリアルなデザインがアール・デコとの相性も良い、隠れた人気アイテムです。
