「シルバーツートーンダイヤル」をご存知でしょうか。

ツートーンダイヤルは1940年代を中心に流行した文字盤スタイルで、主にアワーマーカーエリアを強調するパターンが一般的な視認性を高める工夫のひとつです。

その種類はいくつか存在し、白と黒、グレーなどカラーリングで描かれるパターンや、文字盤表面の光沢仕上げをエリアごとに切り替えることでツートーンを描くという凝った手法も見られます。後者は光の反射を利用し、2種類の光沢部分がそれぞれ別々の反射をすることで異なるトーンを生み出しています。

この光沢の違いによるツートーンダイヤルは、文字盤を見る角度によって単純にトーンが濃くなるというのが一般的です。ある角度から文字盤を見ると、主にアワーマーカーエリアが一層濃く見え、それ以外のトーンが薄い部分はそれほど変化しません。

この場合、光沢に仕上げた部分だけトーンが変化し、それ以外は光沢ではない通常の仕上げをすることでトーンの差を作り出しているのです。下のスミスがまさにそれ。光沢処理されたアワーマーカーエリアが、角度によってより濃くなっているのがわかります。

 

 

 

しかし一部のツートーンダイヤルには、このトーンの濃淡がスイッチするものが存在します。別の角度から見ると、濃いエリアと薄いエリアが入れ替わっている、というものです。

例えばこちらの〈ゼニス〉が手がけた腕時計。英国リバプールの宝飾専門店〈ブードゥル&ダンソン〉とのコラボレーションですが、非常に凝った文字盤デザインです。

 

 

このように、アワーマーカーエリアとそれ以外のエリアのトーンが一瞬で切り替わっているのが分かると思います。

通常版との違いは、どちらのエリアもシルバーの光沢を施しているという点。それゆえこうした文字盤は「シルバーツートーン」と呼ばれます。通常版は光沢が変化する部分が単一でしたが、シルバーツートーンはそれを複合的に採用することで、トーンが入れ替わるというギミックを実現しています。

全面にシルバーの光沢処理を行いつつ、それをエリア毎に微妙に変えるという技術は、当然ながら高コスト。それゆえ個体数は非常に少なく、ジュエラーズウォッチに比較的散見される印象です。

 

続いてこちらはやはりスイス・ルツェルンの高級老舗ジュエラーとして名高い〈ブヘラ〉の腕時計。クリスクロスと呼ばれるユニークな斜め十時に4分割されたエリアが、それぞれ上下左右に異なるトーンが配置されていますが、

 

 

これが、こう。非常にダイナミックな色調の変化が目を楽しませてくれます。

 

 

 

ディマーズ・フレール社の腕時計ブランド〈ディムラ〉の腕時計。アール・デコのデザイン性を凝縮したような極めてグラフィカルなデザインで、こちらはツートーンよりもさらに踏み込んだスリートーンと言うべき非常に凝ったデザインが見受けられます

 

 

アワーマーカーエリアとそれ以外、それに加えて12、3、9のメジャーアワーとレイルウェイ・インデックス上に配置された5分(もしくは1時間)毎のマークにも、さらに異なるトーンの仕上げが施されています。元々のデザインに加えてスリートーン仕上げによって一層強まる凝縮感。もちろん夜光塗料などは一切用いられていません。

 

 

 

ツートーンダイヤルが比較的多く採用される〈スミス〉の腕時計ですが、シルバーツートーンは唯一このモデルのみ。これが、

 

 

こうです。銀無垢ケースの質感と相まって、

 

 

こうした様々なツートーンダイヤルに共通するのが、奥行きのあるデザインによって見るものを飽きさせないという魅力。ふとした時に見せるいつもと違う表情に、どきっとする。あくまで機械製品であり、そのデザインには視認性の確保というツールとしての目的がありながら、どこか人間味を感じさせる一面に、僕も含めみんな魅了されるのではないでしょうか。