アラビア全数字インデックス、レイルウェイ・インデックス、折り重なる線の配置や相似形の連続など、幾何学的要素が前面に出た1940年代前後の腕時計。
これらの腕時計デザインの源流にあるのが、「アール・デコ」と呼ばれる様式です。
1920年代から30年代にかけて欧米で流行したこの装飾美術の様式は、腕時計のみならず工芸品や建築物など幅広いジャンルで広がったデザイン潮流ですが、こと腕時計に関しては、視認性や装着感といった実用面における工夫までもがデザインに落とし込まれ、非常にユニークな存在と言えます。
極度に直線的であったデザイン性がいくぶんマイルドになり、プロダクトデザインとしての完成度も成熟する1940年代。アール・デコの強い影響とともに、バウハウスに端を発するモダニズムの萌芽も見え隠れするデザインは、同時にミリタリーウォッチのデザインの典型へ昇華することになります。
腕時計黎明期のプリミティブな情感を残しつつ、そのひとつの完成を見た1940年代に見られる腕時計が今月のテーマ。個人的にadvintageのセレクトの中核を成す重要な要素として、今回初めてピックアップしました。
なんだかアカデミックな内容になりそうですが、お店で実物を見ていただければ分かりやすいテーマだと思います。 毎週火曜日、ご都合が合えば是非。
エルメスが〈ミドー〉の腕時計を販売していた際のこちらの広告。タイポグラフィや背景の図形を含め直線が支配的なグラフィックは、まさにアール・デコの影響を強く受けた1937年のデザイン。その全体像も角形の腕時計の文字盤を模しており、ローマ数字インデックスを外周部に配置しています。その背景には細かい文字で ”LA MONTRE POUR TOUS LES SPORTS LE SKI L'ÉQUITATION LE GOLF LE TENNIS LE YATCHING”(=THE WATCH FOR ALL SPORTS, SKI, HORSE RIDING, GOLF, TENNIS, YATCHING) の文章や “MIDO MULTIFORT” と書き綴り、まるでツートーン文字盤のような表情を生んでいます。そのセンスは流石エルメス、と言ったところ。