今月の渋谷店で展開している、夏場に使えるアンティークウォッチ。
その中にひときわ個性を放つ一本があります。それがこちら。
 

アンティーク 腕時計

 

 

お分かりのように、この腕時計には真ん丸なケースにリューズらしきものは見当たりません。実はこの時計は、外側の大振りなケースの内側に、もうひとつのケースを内蔵した二重構造となっているのです。

 

アンティーク 腕時計

 

コインエッジが配された外側のベゼルはねじ込み式で、手で開けることが出来ます。すると内部には、ヒンジで固定されたインナーケースが収まっており、ケースを起こしてリューズ操作が可能になるという極めてユニークな構造となっています。5時位置にタブが配されているため、こちらも指で容易に可能。
素材には銀無垢が用いられています。ホールマークから1928年製ということが読み取れるので、以前ご紹介したロレックスのオイスターケースが初めてリリースされた頃と同時期の腕時計。どこか懐中時計を思わせるデザインも頷けます。

 

アンティーク 腕時計

 

この独特のケース構造は、米国のフレデリック・グリュエンと、スイスのジャン・フィンガーという2人の異なる開発者による発明と言われており、どちらがルーツとなっているかは定かではありません。

 

アンティーク 腕時計

上の絵は両者の特許内容を比べたものですが、大きな違いはインナーケースの結合がフックかヒンジかという程度で、ほぼ同じアイデアという印象。今回ご紹介した腕時計は右のフィンガー案がベースとなっています。ちなみにフレデリック・グリュエンは、あの米国の時計メーカー《グリュエン》創業者、ディートリヒ・グリュエンの息子です。

この腕時計は、ねじ込み式のアウターケースの内側に全てが納められているため、非常に気密性が高いのが大きなメリットとなります。その高い密閉製に加え、日焼けしないことで知られるポーセリンダイヤルが採用されており、熱帯気候の地域での使用に耐える「トロピカルウォッチ」とも。ただし、リューズ操作の度にケースを開ける作業が必要なため、面倒くさがりの方にはおすすめできません(笑)
何より、そのアヴァンギャルドなデザイン性こそがこの腕時計の真骨頂です。クラシカルな文字盤デザインに真ん丸なケースという、ある種モードな空気感すら漂うルックスが最大の魅力と言えます。