今月のテーマは「角形の腕時計」。最も一般的なラウンドケースの対極に位置するスタイルながらその人気は極めて高く、レギュラーメンバーの中に一本は入れておきたいジャンルです。
そもそもは腕時計の黎明期、ポケットに入れることの多かった懐中時計が取り出しやすいようラウンド型が好まれたのに対し、その必要がなくなった腕時計が新たに開拓したのが角形というスタイルでした。
ただしケースに合わせてムーブメントも角形にする必要があったため従来のラウンド型ムーブメントを流用できず、その個体数は常にマイノリティの域を出ませんが、逆にそのクオリティや注がれたコストは極めて高く、現在では角形ムーブメントを製造できるのは、一部の高級マニュファクチュールに限られています。
また角形の腕時計はその形状から「タンク」と呼ばれることもあります。アール・デコが隆盛したのがちょうど第一次大戦後にあたり、大戦中活躍した戦車のキャタピラを想起させることからその呼び名が生まれました。腕時計というとラウンド形がまず思い浮かぶかもしれません。で、角形は玄人向け、みたいな。でも腕時計が市民権を持ち始めた1930年代はそうしたイメージと相まって、どちらかというと角形が紳士用腕時計の多数派を占めていました。
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