「ブランド(brand)」とは、そもそも焼き印を入れて他と区別することからきているそうです。
時計に関して言えば、それによって他より高性能だとか、デザインが優れている、老舗である、といった差別化と主張ができるかと思いますが、ロレックスなどの超有名ブランドに至っては、そのブランドロゴがひとつの「顔」のような役割を果たしていることも少なくありません。
有名だからこそなせる業だと思いますが、有名なブランドほど価格にも反映されてしまうのも事実。もちろん品質や性能はそれに相応しいのですが、一部のブランドは若干度を越えて価格が高騰しているようにも思えます。またその人気ゆえ他人と被ってしまうことも多々あります。
時を知るという本来の目的だけではなく、ファッションも腕時計を楽しむ大きなファクターのひとつ。advintageが提案したいジャンルに、あえてブランド名やロゴが入れていない腕時計があります。先日の渋谷店では、そうした「アノニマスな腕時計」がテーマでした。
こちらはその一部です。
 

アンティーク 腕時計

これらの腕時計は、文字盤はもちろん、ケースやムーブメントにもメーカーやブランドの銘が入っていません。あるのは”17 JEWELS”とか”CHRONOGRAPH"といったスペック表記のみ。
1930年代から1960年代の腕時計には、こうしたブランド名を持たないものがあります。
当時欧米における腕時計の販売スタイルは現在と多少異なり、単に業者からブランド時計を仕入れて売るだけではなく、自分の店の名前を冠した腕時計も取り揃えていました。彼らは様々な時計メーカーや組み立て会社から、いわば「空白の」腕時計を卸してもらい、後から好みの銘を入れて販売していたのです。客の注文に応じてケースや文字盤のデザインをカスタムオーダーすることも可能でした。そうした自由度の高い販売スタイルは当時一般的ではあったものの、現代ではコスト的に一部を除いてほとんど不可能です。
ちなみに《スミス》もそうした注文時計の製造を請け負っていたメーカーのひとつ。《J.W.ベンソン》など多くの英国ジュエラーの腕時計を手掛けており、下の中央の腕時計は《トーマス・ラッセル&サン(THO. RUSSEL & SON)》という英国ジュエラーの銘が入っていますが、全く同じスミスの文字盤デザインを踏襲していることが分かります。
 
アンティーク 腕時計

今回ご紹介した腕時計は、ブランドを入れる前のサンプル品が在庫処分等で放出され、市場に出回ったものたちだと思われます。
銘が入っていないということは、クオリティについて何らマイナスの影響はありません。ムーブメントもハイジュエル仕様で性能は十分、クロノグラフもヴィーナスなどの本格派ムーブメントだけでなく、ランデロン47という稀少機が搭載されていたり。ゴールドの2本はケースに9カラットの金無垢が用いられています。
 
アンティーク 腕時計

デザインも秀逸。味わい深く良い面構えのクロノグラフや、上品なデザインの三針時計。特にゴールドのラウンドモデルは、当時金無垢ケースには技術的に難しかったねじ込み式の裏蓋とベゼルを持ち、見事なコインエッジが施されています。ホーン形のラグやクラシックな文字盤デザインも素晴らしい。
むしろ銘が入っていないからこそ、独特のアノニマスな雰囲気が個性的にも見えます。ブランドという、ある種曖昧な制約から解き放たれた潔い態度が、その存在感を特別なものにしているようにも思えます。
いずれも価格は控えめ。アクセサリーとして気負わず楽しめるジャンルです。