
スイス発祥でありながら、英国とインド、そして中東で名を馳せたウエスト・エンド・ウォッチ・カンパニー。アジア市場で140年にわたり途切れることなく活動を続けてきた、特異な経歴を持つ時計ブランドです。
このメーカーの腕時計に共通する特徴として、防水・防塵性能の高い二重構造のステンレススチールケースにねじ込み式の裏蓋といった、非常に堅牢でタフな仕様が挙げられます。また独特のシェイプを持つ小振りなデザインも、同社のオリジナリティを象徴しています。さらにこのブランドの歴史を特別なものにしているのは、英国軍保有の証であるブロードアローが刻印された官給個体が実在すること。民生品を主としながら、軍の公式調達にも採用された数少ないインド市場ブランドでした。
母体となったのは、スイス・サン=ティミエで1864年に創業した時計メーカー《アルシド・ドロズ(Alcide Droz & Sons)》。防水時計を得意とした同社は、1884年にアーノルド・シャルピエという事業家と組んでボンベイに時計商を設立し、翌1885年10月に「West End Watch Co.」を商標登録します。英国・ロンドン中心部の繁華街に由来するこの名前は、当時英国の植民地であったインド市場に向けたものでした。スイス製の時計に英国の名を冠する──この選択自体が、英領インドという市場の性格を物語っています。
第一次世界大戦期の対オスマン=トルコの戦いの際、ボンベイからペルシャ湾を経てイラク(メソポタミア)へ、英国・インド双方の兵士が大挙して派遣されました。その際に供給されたのがウエスト・エンド社の腕時計約5万本で、有名な「アラビアのロレンス」、つまり英国軍情報部工作員トーマス・エドワード・ロレンスが愛用していたのも同社の時計であったと言われています。



当店で扱ったロンジン・ダブルネームの個体は、ロンジン社の工場台帳に記録が残る系統に属し、同台帳は1944年の製造とインドへの発送を記録していました。刻印の意味は謎のままでも、これらの時計が大戦中の英領インドへ渡った実物であることは、文書が裏付けています。この謎については、稿を改めて詳しく論じたいと思います。

ウエスト・エンドは日本ではそれほど有名なブランドではありませんが、インド、中東地域では名のある時計メーカーとして知られています。スイス時計の名門《ロンジン》社との関わりも深く、1940年代には同社の傑作ムーブメントCAL.10.68Zを搭載したモデルが存在するほか、1955年から57年にはインドにおけるロンジンの公式ディストリビューターも務めています。こちらの腕時計には “LONGINES” の文字が文字盤に記載されています。
作りが良く、使い勝手にも優れた腕時計が多く、是非もっと多くの方にその魅力を知っていただけたらと思う、advintage一押しのアンティークウォッチブランドです。




