ロンジン、対のセイタケ。
水の中で生まれては消える無数の泡沫のような、あるいは沈みゆく夕陽にきらめく遠い湖面のような、私たちの想像力をかき立てる景色が広がる文字盤。
これらはただの経年劣化とは違う、文字盤のエイジングがいわゆる「景色」となっています。これは古い陶磁器の釉薬にあらわれる焼成や経年による色彩の変化、貫入といった偶然が生み出す個性あふれる表情にも似た、その時計が辿ってきた背景に由来する固有の魅力と言えます。
ただ最も大切なのは、針やアラビア数字などのインデックスが綺麗に残っているということ。これらはいわば「役者」のようなもので、彼らが瑞々しく生き生きとしている、つまりコンディションが良いからこそ、舞台となる文字盤のエイジングが「背景」として魅力的に際立つのです。
ミュンヘンの時計市。いつものように数時間かけてウロウロと回遊魚のようにテーブルからテーブルへと徘徊していて、ふと輝くものが目に飛び込んできました。それがこのロンジン。
赤や紫、黄色そして緑。まるでオーロラや星雲のようにさまざまな色が複雑なグラデーションを描くその文字盤は、誇張抜きでまさしく光を放っているように見えました。
こういう個体を見るにつけ、「どうやってこんな色が生まれたんだろう」という、芸術作品を鑑賞しているような不思議な感覚を覚えます。


