ある1本のスミスをとことん掘り下げる不定期企画、アバウト・ア・スミス。今回の個体はスミス屈指のコレクターズアイテム、いわゆる「オースチン・スミス」から。

1955年、オースチン・モーター・カンパニーのゴールデンジュビリーすなわち創立50周年記念で、25年勤続の社員に贈呈されたプレゼンテーションウォッチ。

記念刻印が腕時計の裏蓋に施されるほか、ウォッチボックスにもオースチンのエンブレムとともに箔押しされた特別なセットですが、今回の個体はそれに加えて1937年に同じくオースチン社から贈呈されていた銀無垢のプロぺリングペンシルと一緒に発見されました。

この記念の腕時計とペンシルの受取人の名前はH.J.ウッディング。当時25年間オースチン社に勤続した従業員ですが、ペンシルに彫られた刻印を見ると、”for obtaining Free Technical Studentship 1937″とあります。つまり彼はオースチン社で働きながら、1937年に給付型技術学生奨学金を獲得した際にオースチン社からこの銀無垢のペンシルを贈られていたのです。

過去にもadvintageでは何度かオースチン・スミスを取り扱ってきましたが、このような別の記念品と一緒に保管されていたケースは初見。この奨学金はおそらく誰でも受け取ることができる類のものではないと思われ、ウッデイング氏が優秀な社員であったことを示すものであると同時に、これらを大事に所有していた彼の人間性も透けて見えます。

英国車の最古参メーカーのひとつとして知られるオースチンの自動車には、当時スミスのタコメーターや車載時計といった自動車関連機器が搭載されていました。いずれも英国が誇る国産メーカーという関係性から生まれた記念時計ですが、当時の所有者やオースチンという会社の空気感まで私たちに伝えてくれるような、とても人間臭いアイテムです。