古代ローマにおいて成立し、中世後期までヨーロッパで一般的に用いられていたローマ数字。16世紀頃にアラビア数字が一般化した後は、ローマ教皇や国王の名前など主に儀礼的用途に用いられました。
時計の文字盤の数字もまた、その代表的な用途のひとつ。懐中時計においては、その黎明期から数百年という悠久の時の中でローマ数字が主流を占めていましたが、2度の大戦を経て懐中時計、腕時計の実用性に注目されると、圧倒的に視認性の高いアラビア数字の採用が大半を占めるように。いつしかローマ数字は時計の文字盤において少数派となっていきました。
1930年代や40年代のヴィンテージウォッチを見渡しても、ローマ数字の文字盤は極めて少数。しかしそれだけに、ローマ数字特有の荘厳さ、格調高さ、ひいてはドレッシーでゴージャスなイメージは格別なものがあります。
さらに直線のみで構成されるローマ数字のフォントは、幾何学的なアール・デコのデザイン性との高い親和性を持っています。さまざまな線が折り重なって描かれる文字盤の中に、ローマ数字が溶け込むようなかたちで美しいグラフィックを形成するアール・デコ・ダイヤル。今月はそのローマ数字ダイヤルの唯一無二の個性にスポットを当てます。