視認性やムーブメントの問題だけでなく、ケースの気密性についてもレクタンギュラーケースは合理性を欠いていました。つまり角型であるが故にスクリューバックケースを採ることが難しく、しかしながらその制限されたフォルムでどうにかしてウォーターストップ構造を実現しようと、技術者によってさまざまなアイディアが生み出されたのも事実。
全体的に防水構造を採用したレクタンギュラーケースは、独特の重厚感あふれるフォルムが特徴です。クラムシェルと呼ばれる4カ所をビス留めした防水構造は、ベゼル部と裏蓋部を入れ子にするため必然的に二重構造となり、その結果ベゼルは通常よりも分厚くなります。加えて4カ所のラグの根本にビス留めするため、こちらも太いラグが必要となります。
防水レクタンギュラーというジャンルの中でも特に珍しいのは、〈ワイラー〉社が開発した特殊な構造。上記のクラムシェルとは異なり、こちらは長方形の枠の中にムーブメントと文字盤を収納し、上からゴムパッキンを噛ませた上に鍔付きの風防を乗せ、さらに上から弾性のあるステンレスのベゼルを取り外し式のラグパーツによって上下から押さえ込むことで機密性を確保しています。ラグパーツを固定するのは、なんと12時位置と6時位置に差し込まれた杭(くい)。
無理を通すとなにかしら角が立つが、それがデザイン的な面白さをもたらしているという、まさに角型時計らしいエピソード。
余談ですが、やはり角型ムーブメントが必要なレクタンギュラーウォッチは汎用性に欠け、量産のハードルが高かったのも事実です。そのため、角型だけどラウンド型ムーブメントでなんとかなるデザインを模索するという方向性も積極的に進められました。
そこで1930年代に生まれたのがオクタゴン系の多角形ケース。正方形よりもラウンドに近いフォルムのため文字盤をラウンドにしやすいほか、スクリューバック構造も可能という万能選手。
角型の装飾性を保ちつつラウンド型の機能性・汎用性を兼ね備えていますが、1940年代以降は影を潜めます。おそらく正方形のスクエアケースが角型のメジャーを張るようになり、その良くも悪くも中途半端なコンセプトが効率重視の時代に無駄と見限られたのでしょう。無駄なモノほど魅力的なのに。