今月のテーマは、「ミッドセンチュリー・モダン」。
ご存知の方も多いと思いますがこの言葉は1980年代に生まれた用語で、家具やテキスタイル、工業デザインの分野において、文字通り1940年代後半から60年代末にかけてみられたデザイン潮流を指します。
世界的なモダニズムの展開と、二度の世界大戦を通じて生まれた新素材の利用、そして比較的すっきりとしたシンプルなデザインがキーワード。アール・デコやアール・ヌーヴォーのような装飾的な要素は極力排除されたモダンデザインが特徴です。
実際は腕時計の分野でこのミッドセンチュリーデザインが語られることはほとんどありません。しかしながら、当時の腕時計には共通したデザイン性が見受けられます。具体的には、力強いラグや肉厚なベゼルを持つボリューミーなラウンドケース、抽象化されたインデックスデザインやドーフィヌハンドを典型とする大ぶりな時分針といったもの。そしてアール・デコ期に全盛を極めた角型ケースは鳴りを潜め、ラウンドシェイプが多数派となり、サイズ感も33mmを超えるものが目立ちます。
こうしたある種の膨張するデザイン性によって特徴付けられるミッドセンチュリーの腕時計には、曲線が多用されボリューム感が際立つ同時代のプロダクトデザインとも共通するスタイルがあります。
第二次大戦が終わり、人々の間に豊かな生活が浸透するとともに、腕時計が大衆化・一般化されるプロセスの中で生まれたミッドセンチュリー・デザインの風。それは戦後の繁栄の時代を象徴するかのような豊穣なイメージに満ち、性能においても頂点を極める重要なアイテムが揃います。