1930年代の腕時計デザインで流星を極めたアール・デコ。その中で革新的な変化があったのが、アワーマーカーとしての役割を担う数字の意匠化という新しい方向性でした。
時間を示す数字は、視認性を左右する機能的にも重要な部分。それゆえ針と並んで時計の中でももっとも印象的な部分で、1900年代以前はフォントの違いはあれど、遊び心のある意匠化はほとんど行われていない分野でしたが、1930年代を通じて独自の変異が起こります。

 

 

 

 

 

明らかに変な方向性が生まれていたのがアラビア数字です。見ての通り、長細い。
これは20年代やそれ以前にまず見られないデザインです。しかし、なぜこのデザインが生まれたかという点について、理由は明白。これまで幾度となく言及してきた、「分ける」という志向性を持つ1930年代のセクターデザインがそれです。
ローマ数字も同様にアール・デコによる意匠化が行われます。

 

 

 

 

しばしばアール・デコの象徴として語られることのある、ローマ数字ですが、実際にはローマンインデックス自体は懐中時計や壁掛け時計が活躍していた19世紀やそれ以前の時代からポピュラーでした。20世紀に入ってもも腕時計にローマ数字とアラビア数字は混在していて、アール・デコ前後でその数に大きな変化はありません。
基本的にはアラビア数字と同様に線の細いスタイルが用いられますが、どちらかというとその直線のみで構成されるデザイン的特性を活かしたものが目立つ様子。しかも直線的であるがゆえに文字盤を「分ける」指向にフィットしやすい数字でもありました。
たとえばローマ数字を円周と組み合わせて文字盤の全体的な意匠に溶け込ませたり、セクターダイヤルのバーインデックスに化けさせることを狙ったスリムなフォントを採用したりと、その用いられ方はアラビア数字以上に自由でした。
またこのオメガのように、ローマ数字の直線的なスタイルと対照的なドットを間に挟むことで新鮮なリズム感を狙うという、1950年代のあたらしいリヴァイヴァルの形も見受けられます。

 

 

 

とりあえず今回のアール・デコにかんする一連の考察はここまで。やっぱりいろいろ調べてみると面白いし、まだまだ一般的に語られていないことが山ほどありました。それだけ「なんとなく」紹介されてきたのが、腕時計におけるアール・デコなのかもしれません。
また新しい見方や事例がでてきたらあらためてご紹介したいと思います。