知る人ぞ知る英国の腕時計ブランド〈スミス〉。豊富なラインナップもさることながら、多彩なバリエーションを持つ文字盤デザインに注目が集まりますが、今回は同じデザインでも独自の個性を持つ4本をセレクト。
 

 

ぱっと見はほとんど違いが分からないかもしれませんが、それぞれ他と何かが違います。
一番右はスミスの代名詞と言っても過言でもない、名機「デラックス」。1953年、エドモンド・ヒラリー卿がエベレスト登頂の際身につけていたモデルと同等のスペックを持つ腕時計を、いわゆるエクスプローラーモデルとしてスミス社がリリースしたのがこちらです。
特にポピュラーなものはスナップバックの金無垢ケースですが、こちらはゴールドプレートケース×ステンレススチールバックの組み合わせ。ただし、スクリューバック式のアクアタイトケース採用モデルというところがミソ。ちなみにこのモデルはクロームもしくはゴールドプレート(メッキ)のみ生産されていたため、メッキの摩耗やキズを免れた良個体は非常に少ない上に、スミスの主なラインナップはスナップバックケース仕様のドレッシーなものが多かったため、防水ケース仕様のタフなモデルは貴重な存在と言えます。
幸いにしてこちらの個体は非常に良いコンディションで保管されており、アクアタイトケースならではのボリューミーなボディは美麗そのもの。文字盤も日焼けが少なく、ツートーンのコントラストがやや強めな特徴を有しています。

 

 

 

その左にあるのが、スミスが製造を手掛けた英国の老舗宝飾品店〈ガラード〉の腕時計。このモデルは自動車メーカー〈フォード〉社の社員への長期勤続記念品として1964年に贈られたもの。右のデラックスとは10年近く後の腕時計ということになります。
こちらはすべて金無垢という非常にゴージャスな一本。スクリューバックケースはネジ山をケースと裏蓋両方に刻む必要があるため、スナップバックに比べてボリュームがあります。金の比重の重さもあり、ずっしりとした重量感を持つのが特徴です。この腕時計をもらうということは大変な栄誉だったと思われます。

 

 

一番左は先に触れたスナップバックの金無垢ケース。この文字盤デザインの長所は他と比べて文字盤の面積が広い点にあり、スミスのドレスウォッチとしてはやや大きめな32mmというバランスの取れたケースサイズとなっています。大きすぎず、小さすぎず、非常に汎用性の高い着用感があり、多くの人が定番として選ぶ一本です。

 

その右のモデルは、同じくスナップバックの9金無垢ケースが採用されていますが、こちらはエベレスト登頂を記念して企画されたフラッグシップモデルで、その名も「エベレスト」。バリエーションはいくつかあるものの、製造個数が極めて少ないためコンディションの良い個体と出会えるのは稀です。
 

 

今回は共通する文字盤デザインを持つスミスの腕時計をピックアップしましたが、これだけバリエーションに富む時計ブランドも珍しいと実感します。
ロレックスやオメガ、ロンジンといった世界的なメゾンにも比肩する豊富なラインナップと、高品質な英国製ムーブメントを自社で製造する技術力。英国が誇るマニュファクチュールは、70年代のクォーツショックによって撤退を余儀なくされましたが、そのかたくななまでの機械式・英国製へのこだわりは、”MADE IN ENGLAND”の文字とともに、今もなお一層その輝きを増しています。