アンティーク 腕時計

先週1週間ほど九州を旅してきました。
恥ずかしながら自分にとって初めて九州の地を踏み、熊本、鹿児島、福岡と計三県を周遊しました。食事の美味しさ、風景の美しさはもちろん、何より人々が大らかで、急いでいる人が東京に比べて圧倒的に少ないのに驚きました。
今回は旅行記ではなく、旅の目的のひとつだった九州の工芸品について。
陶芸の窯元や木工竹工の作業場、地元工芸品の販売店や展示会などを幾つか訪ねました。実際に製作に携わっている職人さんにも直接お話しをさせていただく機会もあって、モノだけではない、職人さんの思い入れも含めて工芸品と向き合うことができました。
特に気に入ったのがこの竹細工のケース。鹿児島のとある竹細工の工房兼直売所で買いました。普通のケースですが、とても繊細なのに丈夫。無頓着に置いてあったのですが、何となく佇まいにオーラを感じました。
鹿児島は竹林面積が日本一で、竹細工の職人さんも昔は数多くいたそうです。昨今では中国製の安価な製品に押され、職人の数も激減。質の良い竹の伐採ができる切子と呼ばれる人たちも消え、最近は職人自ら出向いて行う必要があるそうです。
 
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妥協のない仕事は細部に宿り、手作業による繊細な竹材の切り出しをはじめとして、特に難しい竹の直角曲げといった職人技が詰まっています。
ただ、僕が何より感動したのはその職人さんの話。自分が作った製品には絶対に銘を入れないのだそうです。工芸品の多くは、ロゴや銘を入れることでブランド化し、付加価値を付けるのが常套手段と言われています。それは決して悪いことではないのですが、その職人さんからするとそれは無用だということでした。
銘を敢えて入れず、自慢もしない。その分手頃で日常使いできる。特別分かりやすく差別化しなくても、良い物は勝手に選ばれる、という信条が、鹿児島の竹細工職人の職人気質なのだそうです。
本当に良い物は、人と時間が証明してくれる。実際にその職人さんの工房には40年近く使われた同型のケースもあり、当然のように現役を続けていました。表面はまるで革の経年変化のような飴色に艶を増し、その美しさも際立っていました。
確かに、これに銘やロゴが入るだけでなんとなく蛇足に感じる。またそれによって、本来持つ特別感が急速に失われてしまう気がする。
現代では無印良品以外にはなさそうですが、アンティークウォッチではそうした無銘の腕時計も、意図的かどうかは別として散見されます。注文時計や時計学校の製作などがそれにあたりますが、クォーツショックで散っていった、現代では無名のメーカーによる質の良い腕時計も多く存在しています。
有名ブランドではないためその良さはなかなか伝わらないし、着けていて自慢ができるといったわけでもないかもしれません。それでも十分良質なムーブメントを備えているし、魅力的なデザインという点では、そうしたブランド品と肩を並べるものがあるのも確かです。
中だるみせず気負わず、日々使える働きものの腕時計。今回の旅で出会った九州の工芸品には、advintageがスポットを当てたい腕時計に通じる何かを感じました。直接時計と関係ないテーマでしたが、次回の渋谷店はそうした無名の時計をいくつかご紹介したいと思っています。
 
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